プロに聞く!ヒヌカンを引っ越し先にお迎えするお作法

ヒヌカンのイメージ

ヒヌカンは、沖縄で信仰されている火の神。お家や家庭を守ってくれる神様です。昔はどの家庭にもあったけど、最近ではヒヌカンを持たないお家も多くなってしまいました。
しかし、分譲マンションの購入やお家を建てたことをきっかけに、新居にヒヌカンを持つ人も大勢います

「やり方が分からない」「マンションにも置けるかな?」など、ヒヌカン初心者の素朴な疑問にお答えするため、創業150余年、仏壇・仏具・神具を扱う照屋漆器店の代表、照屋さんに新居にヒヌカンを置く場合のお作法や日々の拝み方などを教えていただきました。

この方にお話しを伺いました!
照屋漆器店/七代目代表 照屋慎さん

照屋慎さん

照屋漆器店/七代目代表

沖縄のトートーメーやヒヌカン信仰をサポートする仏壇、仏具を扱う仕事に誇りを持ち、文化や行事のお作法などの情報発信や、壺屋焼きなど他の伝統工芸と提携した仏具の商品開発も行っている。また、「沖縄の伝統行事や文化を若い人にも浸透させ、次世代にきちんと継承したい。そのためには、女性だけが行事を行うのではなく、男性ももっと協力するべきです」と、文化保全の啓発にも努めている。

照屋漆器店 https://www.teruyashikki.com/
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ヒヌカンとは?

ヒヌカン(沖縄の火の神さま)のイラストイメージ

ヒヌカンとは、火の神様のこと。家や家庭を守ってくれる神様として、沖縄では古くから信仰されています。ヒヌカンを管理するのは一家の主婦の役目です。

一家の主である男性が管理する、床の間にお祀りする神様・トコシン(床の神)もいますが、こちらはヒヌカンに比べてお祀りしていない家庭が増えてきています。照屋漆器店ではトコシンの道具も扱っているので、お祀りするお作法なども教えてもらえます。興味がある方はぜひ、お店でトコシンも見てみてくださいね。

ヒヌカンをお迎えするお作法

ヒヌカンの実写

ここでは基本的なヒヌカンのお作法を解説しますが、地域や各家庭でやり方は多少異なります。しかし、「神様に感謝する」「神様に家を守っていただく」という根本的な考え方は同じです。

「絶対にこのやり方でないとダメ」ということはないので、考え方や意味合いを理解し、気持ちを込めて行うことを心掛けてください。

道具を準備する

新しくヒヌカンをお迎えする場合、まずは必要な道具から揃えましょう。基本は白の無地の陶器ですが、地域によっては青緑色の青磁の道具を使うところもあります。

道具は沖縄の大型スーパーやホームセンターなどでも購入できますが、照屋漆器店ではサイズが豊富に揃います。種類は白の陶器か青磁の2種類なので、ウコールの大きさが選ぶポイントとなります。

ウコール(御香炉)

お線香を立てる香炉です。照屋漆器店では3寸から7寸まで揃っています。1寸が約3cmなので、3寸だと直径約9cm。

マンションやアパートに置く場合は3~3.5寸の小さいサイズが好まれているようですが、「ウコールは大きめがおすすめです」と照屋さん。

「ウコールが小さいと、線香の灰が香炉の淵にかかったり外にこぼれたりするんです。線香を立てる度に灰の掃除をしないといけなくなるので、掃除が面倒で段々線香を立てなくなり、手を合わせなくなってしまう人もいます。だから できれば香炉は少し大きめのサイズがいいですね」。

4寸~5寸あれば、灰がこぼれ落ちることはないそうです。キッチンのサイズに合わせるだけでなく、続けることを考えて選んでみてください。

ウコールの中にいれる灰は、色々な考え方があります。昔は実家から灰を分けてもらっていましたが、現在は新しい灰で仕立てることが多いそうです。新しい家庭を築くという意味でまっさらな灰を用意してもいいですし、実家から分家する、継承するという意味で灰を分けてもらってもいいです。

どちらが正しいということはないので、どの考え方やスタイルが自分に合うか考えて決めるといいでしょう。灰は道具と一緒に大型スーパーやホームセンター、照屋漆器店で購入できます。

うぶく茶碗

うぶく(ご飯)を盛ってお供えする器です。毎日は使用せず、旧暦の1日・15日やヒヌカンの行事のときに使用します。

本来は3つで1組、うぶくは3つお供えするのが基本ですが、最近では1つのみにしている家庭も多いようです。1つも3つも手間は変わらないので、なるべく3つお供えできたらいいですね。

花瓶

チャーギ(イヌマキ)の枝やクロトン、榊などを活ける器です。ヒヌカンにはお花はお供えしないので、葉物を用意するようにしましょう。

葉物は1日・15日に新しいものに取り替えますが、水はこまめに入れ替えると長持ちします。

湯呑

ヒヌカンにはお茶ではなくお水をお供えします。水は毎朝入れ替えます。朝一番、台所を使う前にお水を入れ替えるのを習慣にするといいでしょう。

お酒をお供えする器です。こちらは毎日ではなく1日・15日に入れ替えます。お酒は泡盛を使用します。できれば土地の物、地元の泡盛酒造会社のものを選ぶといいでしょう。

小皿

小皿にはお塩を盛り、1日・15日に取り替えます。塩は海からの贈り物で尊いもの。災いや穢れを祓い清めてくれます。ですので、なるべく沖縄の海水から作られている天然塩を使用するのがおすすめです。

ヒラウコー(沖縄線香)

ヒヌカンに使用する線香は沖縄独特のもので、黒い平たい板状の線香。1枚を「ヒトヒラ」といい、5本の筋が入っており6本の線香がくっついた形になっています。筋に沿って割ることができ、3本(半分)で使用したりします。

道具を清める

道具が全て揃ったら塩水で洗い清め、しっかり乾かして保管しておきます。

置く場所を決める

火の神様、台所の神様なので火の近くに置いてください。ガスコンロではなくIHクッキングヒーターも火と同じ扱いなので、IHクッキングヒーターの回りに置きます。

先にヒヌカンの位置を決めてから、キッチン道具の置き場所を決めるといいでしょう。毎日お水を替えるので、使い勝手や動線などもイメージして他のものの配置を決めてください。ヒヌカンが「お飾り」になってしまわないように気を付けましょう。

仕立てる日を決める

新しくヒヌカンを作ることを「仕立てる」といいます。仕立てる日は、旧暦の1日か15日。新居に仕立てる、もしくは移動させる場合も、旧暦の1日か15日に行いますが、引っ越しの前に先にヒヌカンを仕立てます

新しい家や生活を守ってもらうため、人間よりも先に神様に入ってもらうという考えだそうです。お仏壇を持っているお家は、お仏壇もヒヌカンを仕立てた後に入れてください。引っ越しの日が決まったら、その前の一番近い1日か15日にヒヌカンを仕立てる日を設定してください。

ヒヌカンの仕立て方

ヒヌカンは台所を預かる主婦、女性が管理します。仕立ても管理する本人が行います。新しい道具、または前の家から持ってきた道具を火の回りに設置し、水、酒、塩、チャーギ、うぶくをお供えします。ウコールには灰を入れ、ヒラウコーを15本立てます。1枚が6本なので、2枚と半分を並べて立てます。

ヒヌカンの前に正座をして、手を合わせます。今日の日付と家の住所、家族の干支と名前を言い、「新しくヒヌカンを仕立てますので、●●家の健康と繁栄をどうぞお守りください」と祈ります。

ヒヌカンの拝み方

ヒヌカンに拝む女性のイメージ

ヒヌカンを仕立てて神様をお迎えしたら、お供え物やお祈りはきちんと継続しましょう。ここでは基本的なお祈りや行事を紹介します。

毎日の拝み

暦の1日と15日にしっかり手を合わせていれば毎日の拝みは特に必要ないですが、水は毎朝取り替えるので、そのときに線香なしで手を合わせて簡単に家族の健康を祈るといいと言われています。

祈りの言葉は「今日の日付、家の住所、一家の主の干支と苗字と名前、家族の全員の干支と名前、拝みの目的、感謝の言葉」がワンセットです。慣れるとスラスラ言えるので、そんなに時間もかかりませんが、心を込めて唱えることを忘れずに!

普段は家族の健康と繁栄を願ってください。家族に何か特別なことがある場合、例えば子どもの受験や家族旅行などのときは、その無事を祈ります。

ついたち・じゅうごにち

旧暦の1日と15日には水だけでなく、チャーギと塩、酒も取り替えます。また、うぶく茶碗に炊き立てのご飯をこんもりと盛って3つ並べ、ヒラウコーを15本立てて正座をします。足が痛い人は座布団を敷いたり低めの腰掛に座ったりと工夫をするといいでしょう。

手を合わせていつものように祈りの言葉を唱えますが、1日と15日は事業の成功や子どもの結婚など、叶えたい願いがあれば伝えてもいいと言われています。ただし、一方的にお願いするのではなく「頑張っているので応援してください」というような形でお願いするのだそうです。

下げた塩とうぶくは、捨てずに使用します。塩は埃りがついて料理に使用するのに抵抗がある場合は、玄関や外にまいて厄払いしたり小さな袋に入れてお守りにしたりします。うぶくは食べますが、必ず別の器に移します。神様と同じ器でそのまま食べないように気を付けましょう。

ウグヮンブトゥチ

いつも家をお守りしてくれている神様ですが、年に1回、旧暦の12月24日に天に帰ってしまうので、ウグヮンブトゥチ(御願解き)と言ってヒヌカンの昇天を行います。

まず、線香を15本(2枚と半分)立てて、今年1年の感謝を唱えて願いを取り下げリセットします。次に、ウコールから天に昇るイメージで3本(半分)のヒラウコーを7つ横並びに立てますが、香炉が小さい場合は3本線香を1つ立て、消えないうちに次の3本線香を立てる、というのを7回繰り返します。

これを「七橋かける」といい、ヒヌカンは天の神様にこの1年間の家族のことを報告するために七橋の線香を渡って天に昇るそうです。

サカンケー

報告を終えたヒヌカンは、パワーアップして翌年の旧暦1月4日に帰ってきます。15本(2枚と半分)のヒラウコーを3組立てて、手を合わせます。この時は「今年も1年お守りください。よろしくお願いいたします」という内容を唱えます。次に3本(半分)ヒラウコーを7つ立て、七橋かけてお迎えします。

感謝の気持ちが大事!

キッチンと女性。火の神様に感謝する心をイメージ基本のヒヌカンのお作法を紹介しましたが、常に完璧にできることもなく、「お祈りのときに住所言うの忘れた!」とか「1日・15日やるの忘れた!」ということもありますよね。もちろん、間違えても忘れても大丈夫です。後からちゃんと「忘れてしまいました。気を付けます」などと反省や理由を述べるといいそうです。日々心を込めて感謝していれば、神様にはきっと伝わるでしょう。

「ヒヌカンを置きたいけど、管理が大変そう」など置くかどうか迷っている方も、ぜひヒヌカンのある生活をイメージしてみてください。沖縄の大切な信仰なので、できることからはじめてみるといいかもしれませんね。

 

取材・文/仲西なほ子

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