うちなーんちゅも知らないかも?!「思い」を繋ぐ、沖縄の旧正月とは

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新たな年の幕開けを祝う「正月」ですが、沖縄には旧暦の「旧正月」をお祝いする伝統文化があることをご存知ですか?2025年の旧正月は1月29日!

実は、旧正月には暦や沖縄の歴史が深く関係しています。今回は、沖縄の地域や各家庭で大切にされている「旧正月」の歴史や風習・伝統を紹介します。

この方にお話しを伺いました!
帰依剛隆さん

 

帰依 剛龍さん

コザ山 ライカム院 球陽寺(コザ本願寺)
副住職

   

2022年に帰郷し、浄土真宗本願寺派(西本願寺)球陽寺の副住職に就任。「沖縄文化と仏教の関係性を伝えたい」との思いから、ラジオやSNS、YouTubeなどで沖縄の風習や歴史文化を発信している。
毎週金曜日18:00~18:30にはFMコザで「キエ剛龍の沖縄のしきたりと仏教」放送中。

コザ山 ライカム院 球陽寺(コザ本願寺)
http://www.kozazankyuyoji.com/
   
球陽寺②
   
帰依 剛龍さん インスタグラム 
https://www.instagram.com/gohryu88/

 沖縄にはなぜ旧暦の風習が残っている?

   
沖縄に旧暦の風習が色濃く残っている背景には、農業や漁業が盛んであることが大きな理由です。月の満ち欠けに基づく旧暦は、特に潮の満ち引きを重視する漁業では重要なものでした。帰依さんは「旧暦は漁業文化と深く結びついており、漁の成功を祈願する行事が旧正月と密接に関係している」と語ります。文化が密接に関係していると思いきや、漁猟と自然が大きな理由だったとは驚きです。  

「旧暦」と「新暦」とは

   
旧暦は暦を月の満ち欠けに合わせたもので、新暦は太陽の動きに合わせた暦の数え方です。1年を365日とする新暦ですが、旧暦では1年が354日で構成され、その間には11日ほどのズレが生じます。このズレを調整するために、33カ月に1度「閏月」が追加されるのも旧暦の特徴です。この閏月のことを沖縄の方言では「ユンヂチ」と呼びます。2025年はまさにユンヂチがある年で、旧暦では13カ月の年となるのです。2025年のユンジチは7月25日~8月22日に当たります。33カ月といえば3年弱に一度。結構な頻度でユンヂチは巡ってくるのですね!

旧暦の歴史や文化はどこからきた?そのストーリーとは?

   
日本本土では、「604年に暦ができた」と記されている書物もあるそうで、歴史や古来からの貿易の中で伝わってきたとも言われています。
   

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沖縄では旧暦は中国から伝わった文化に強く由来していて、中国との交易を通じてこの暦が取り入れられました。1372年には琉球王国と明(中国)が正式に貿易を始め、沖縄県全島で旧正月の風習が根付くきっかけになったとされています。

沖縄で新暦で祝うようになったきっかけは?

   
明治政府は1873年に新暦が採用したことで旧暦で祝う文化は徐々に薄れていきました。一方、沖縄では漁業が盛んだったため、新暦が導入された後も旧暦の風習が根強く残りました。しかし戦後のアメリカ統治時代には新暦が推奨され、沖縄でも徐々に新暦の正月が一般化していきました。現代の様式になっていたのは、きっとこの頃からということなのでしょう。

日本で旧正月を祝わなくなった理由

   
新暦が採用されたのが一番の原因だと考えられているそうで、帰依さんによると「内陸部の地域だと漁業が関係ないから旧暦・旧正月で祝う意味合いが薄くなったからではないか」ということです。
  

現代でも旧暦で正月を迎える地域もある!

  
新正月(1月1日)と旧正月の両方を祝う地域もあります。実際に、沖縄県内でも特に漁業を背景に発展してきた糸満市や鹿児島県奄美大島、香川県小豆島の一部など沿岸部の地域では現在も旧暦を採用している地域があるそうです。月の満ち欠けが重要な漁業と旧暦・旧正月は切っても切れないと言えるかもしれませんね。

旧正月の過ごし方

  
旧正月には独特の飾り付けや供え物があります。例えば、食べ物では重箱の中に赤い餅やかまぼこ、三枚肉を用意するのが一般的です。赤い色にはお祝いの意味が込められており、特に三枚肉は皮の向きを下にして供えます。三枚肉の盛りつけ方について、なぜ皮が下向き?上下でどういった意味合いがあるの?と思いましたが、これは旧正月が「生贄」ではなく「祝福」を意味する場であることを象徴しているそうです。
  
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頂く食べ物、飲み物、飾り付けなど

   
沖縄の伝統では、正月におせち料理ではなく重箱料理の「御三味(うさんみ)」が食べられます。豚肉料理が中心で、豚肉を入れた「クーブイリチー(昆布の炒め物)」や豚のホルモンでつくる「中身汁」、「ミミガーの刺身」や「三枚肉」などのほか、「田芋でんがく」「昆布巻」などがあります。普段、食べる沖縄料理もあり馴染みがありますね。また、沖縄では正月に無病長寿を願って飲む薬草酒「お屠蘇(とそ)」の代わりに泡盛を酌み交わすことが一般的なのです。
   
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また飾り付けでは、赤白黄の3色の紙「アカカビ」の上に、ミカンや「炭昆布(たんとぅーくぶ)」という炭を昆布で巻いたものをお供えする風習もあります。炭は清浄、昆布は幸福を表すとされ、新年の健康や若返りを祈る意味が込められていますが、「炭=たくさん」「昆布=喜ぶ」という語呂合わせでお供えしたり、飾ったりするという考えもあり、とても縁起が良いのです。みなさんは「炭昆布」、聞いたことがありますか?実は、年末には県内のスーパーなどでも販売があり、身近に購入することができます。正月といえば「しめ縄飾り」のイメージが強いですが、「沖縄スタイル」もあるのですね!

「若水汲み」とは?

   
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新年最初の水を汲み、それを仏壇に供える「若水汲み」も旧正月の重要な行事です。この水には生命力の底上げや健康祈願の意味があり、供えた後はお茶に使ったり、顔を洗ったりします。現代では水を汲みに行くことが難しい為、水道水で行うことが一般的。蛇口からの最初の水を3回に分けて汲むとよいでしょう。

「3」という数字

   
「3」は儒教や道教における「天・地・仁(天・地・水)」や3色で「赤=太陽」「黄色=月」「白=星や雲」とを表すという考え方があり、旧正月においては若返りや健康に焦点が当てられていると言います。縁起も重んじられているのです。

地域別の風習

   
沖縄の旧正月の風習は地域や家庭によっても異なります。例えば、糸満市のような漁業が盛んな地域では旧正月を盛大に祝う家庭が多いのに対し、旧正月を祝わない地域もあります。また、北部や離島では重箱の飾り付けや供え物の配置が本島とは逆になることもあります。これは、琉球王朝から距離が遠かった地域では情報が口伝えで伝わり、異なる解釈が生まれたためとも言われています。

御先祖様と過ごすお正月もある?

   
旧正月が終わると、旧暦1月16日にはあの世の正月「16日祭(じゅうるくにちー)」が行われます。これはご先祖様と過ごすお正月で、特に八重山地域や本島北部の地域では大切にされています。2025年は2月13日が16日祭の日となります。沖縄文化がご先祖様をとても大切にするということが、とてもよく分かります。
   

絶対な正解がないからこそ、マンション生活でも取り入れられる文化

   
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暮らしも多様化している現代で、私たちが取り入れることができる文化はどういったものがあるのでしょうか。例えば、沖縄のおせち料理を少しだけご近所さんと交換して一緒に味わったり、子どもと一緒におせち料理を作るのも良い思い出になります。飾りでは、マンションの玄関先に小さな門松や紅白のしめ縄を飾ったり、室内では子どもと一緒に絵馬に願い事を書き、部屋に飾るのもよいですね!そのほか、花を生けたりアレンジメントを置くのも、グッと雰囲気が高まります。

形式ではない、世代を超えて繋ぐ想い

   
沖縄の文化は中国や日本、本土の文化と混ざり合い、「チャンプルー文化」と呼ばれる独自の形で発展してきました。旧正月も家庭ごとに異なる祝い方があり、「絶対的な正解はない」といいます。正月にもご先祖様を迎え、一緒に過ごすという気持ちが大切なのです。

新正月、旧正月お住まいの地域によって風習慣習は異なっても、みんなでいい1年を過ごしましょう

   
「新旧暦のいずれにしても『正月』というと先祖や神様に向かいがちだが、この機会にご先祖様への感謝や思いを通して自分を見つめ直し、自分への学び直しの機会にもしてもらえれば」と帰依さんは話します。1年の始めの節目に、気持ちを新たにする機会にしていきたいものです。
  
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マンション生活でも、心は沖縄

   
中国から伝わった文化を沖縄独自の風習として大切にし続けている沖縄の旧正月。単なる行事ではなく、深い歴史や伝統、ご先祖様との繋がり、そして先人たちの知恵が詰まった文化そのものです。マンションという限られた空間でも、工夫次第で沖縄の旧正月の温かさを味わえます。ご家族やご近所さんとの交流を深め、伝統を大切にすることで、より豊かな旧正月を過ごすことができるでしょう。この機会に旧正月の魅力を再発見して暮らしに加え、大切な家族や地域との絆を深めてみてはいかがでしょうか?

   

取材・文/札本咲子

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