「保険って、結局は人なんです。」50年続く保険代理店が考える、住まいを守るということ
「保険って、結局は人なんですよ」
取材の終盤、諸見里健吾さんがふと口にしたその言葉が、ずっと心に残っています。
保険というと、補償内容や保険料の話になりがちです。
けれど今回の取材で見えてきたのは、それだけではありませんでした。
創業から50年以上。地域の人たちの暮らしを支え続けてきた保険代理店。
その3代目として事業を受け継いだ諸見里さんが見ているのは、「保険商品」ではなく、その先にある暮らしです。
マンションを購入すること。
家族との暮らしを守ること。
そして、もしもの時に慌てないための備えを持つこと。
今回は、沖縄で住まいを持つ人にこそ知ってほしい保険の話と、その背景にある仕事への想いについて伺いました。

諸見里 健吾 さん
株式会社assetpro(アセットプロ) 諸見里保険 代表取締役
不動産業界で営業職として経験を積んだ後、50年以上続く家業「諸見里保険」に入社。保険会社で2年間勤務し、保険の知識と実務を学んだ後、3代目として事業を継承した。現在は法人化した株式会社assetproの代表として、損害保険・生命保険を取り扱う。住まいを持つ側の視点も大切にしたいと、自身もマンションを所有。不動産と保険の両方の経験を活かしながら、地域の暮らしに寄り添う提案を続けている。
50年以上続く看板を受け継いだ理由

諸見里保険の歴史は、沖縄でまだドルが流通していた時代までさかのぼります。
創業したのは諸見里さんのお祖父様。当時は自動車保険を中心に、地域の人たちの暮らしを支える仕事として事業をスタートしました。
それから50年以上。
親から子へ、そして孫へ。
長い年月をかけて、地域との信頼関係を積み重ねてきました。
しかし、現在代表を務める諸見里さんは、最初から保険業界にいたわけではありません。もともとは不動産業界で営業職として働いていたそうです。
「正直、不安でしたね」
そう当時を振り返ります。
不動産と保険。
どちらも暮らしに関わる仕事ですが、求められる知識や役割は大きく異なります。
だからこそ、家業へ入る前に保険会社へ就職し、2年間現場で学んだそうです。
「自分が理解していないと、お客様に説明できませんから」
家業だから継ぐのではなく、自分自身が納得して受け継ぎたい。その姿勢が印象的でした。
なぜそこまでして家業を継ごうと思ったのか。そう尋ねると、少し考えてからこう話してくれました。
「50年以上続いてきた会社を終わらせるのは違うかなと思ったんです」
当時、お祖父様は80代半ばを超えても現役。沖縄県内でも最高齢クラスの保険代理店経営者だったそうです。
「長年お付き合いしているお客様もたくさんいました。その関係をなくしたくなかったんです」
受け継いだのは会社の名前だけではありません。地域との信頼そのものだったのかもしれません。
「保険って、結局は人なんです」

今回の取材で最も印象に残った言葉があります。
「保険って、結局は人なんですよ」
事故が起きた時。台風で被害が出た時。水漏れが起きた時。
お客様は不安になります。
そんな時に必要なのは、約款を読むことではありません。
まずは相談できる相手がいることです。
「保険会社じゃなくて、私たちは代理店なんです」
保険金を支払うのは保険会社。
けれど、その間に立ち、お客様と一緒に解決策を考えるのが代理店の役割です。
「どうやったら保険がきちんと使えるか、一緒に考えるんです」
その言葉に、地域密着の仕事らしさを感じました。
インターネットで申し込める保険も増えました。
便利な時代になった一方で、困った時に相談できる相手がいる安心感は、今も変わらず大きな価値なのかもしれません。
マンションを買ったら、保険はどう考える?

今回の取材テーマでもあるマンション保険。
諸見里さんは開口一番、
「戸建てとマンションでは、保険の考え方が全然違うんです」
と話してくれました。
家を購入したら火災保険に入る。
そこまでは多くの方が理解しています。
しかし、
何に対して保険をかけるのか。
ここを理解している人は意外と少ないそうです。
戸建ての場合は建物全体が自分の所有物。
そのため建物全体に保険をかけます。
一方マンションは違います。
廊下や外壁、エレベーター、エントランスなどは共有部分。
自分が所有しているのは専有部分だけです。
「共有部分には管理組合が保険をかけているケースがほとんどです」
つまり、自分が加入する火災保険は専有部分を守るためのもの。
そんなマンションならではの考え方があるのです。
知らないと損をするかもしれない「専有部分」の話

マンション購入者によくある勘違いがあります。
それが、「購入金額と同じ額の保険をかければ安心」という考え方です。
例えば3,000万円で購入したマンションなら、3,000万円分の保険をかける。
一見すると自然な考え方に思えます。
しかし、マンションの場合は必ずしもそうではありません。
「購入価格には共有部分の価値も含まれているんです」
共有部分にはすでに管理組合側で保険がかけられている場合がほとんど。
つまり、自分が保険をかけるべきなのは専有部分だけです。
「必要以上にかけても意味がないんですよ」
大切なのは、高額な保険ではありません。自分の住まいに合った保険を選ぶこと。
そのためには、自分の責任範囲を理解することが第一歩なのだと教えていただきました。
沖縄だからこそ知っておきたい台風との付き合い方

沖縄で暮らすうえで避けて通れないのが台風です。
毎年のようにやってくる大型台風。
県外から移住してきた方は、その勢力に驚くことも少なくありません。
「室外機が飛ばされたり、飛来物で設備が壊れたりする相談はあります」
沖縄では身近な風災リスク。
だからこそ保険の重要性も高くなります。
ただし、ここで注意したいことがあります。
「台風が発生してから保険に入っても、その台風は対象外になるんです」
これは意外と知られていないポイントです。
台風が近づいてきたから加入する。
それでは間に合わないことがあります。
「やっぱり事前の備えが大切なんですよ」
何も起きないことが一番。
それでも、もしもの時に慌てないために準備しておく。
それが保険本来の役割なのかもしれません。
共同住宅だからこそ生まれる責任

マンションは共同住宅です。
だからこそ、一戸建てにはないリスクもあります。
例えば水漏れ。
「実は結構あるんですよ」
床下の給排水設備から漏水が発生し、下の階へ被害が広がる。
自分では気づかないうちに起きているケースもあるそうです。
また、ベランダから物を落としてしまうケースもあります。
スマートフォン。植木鉢。洗濯用品。
もし人や車に当たってしまえば、大きな事故につながる可能性があります。
「共同住宅だからこそ、他の人に損害を与えるリスクもあるんです」
そのため諸見里さんは、個人賠償責任特約の加入を勧めています。
火災だけでなく、暮らしの中で起こり得るさまざまなトラブルに備える。
それも保険の大切な役割です。
保険は売るものではなく、暮らしを守るもの

取材の最後に、少し意地悪な質問をしてみました。
「保険って、たくさん特約を付けた方が利益になることもありますよね?」
すると諸見里さんは笑いながらこう答えました。
「私たちは保険を売りたいんじゃなくて、お客様に信頼されたいんです」
その言葉に、この仕事への考え方が凝縮されているように感じました。
不要な補償は削る。必要な補償は残す。その人の暮らしに合わせて設計する。
「ちゃんと使える保険をつくることが大事なんです」
保険は加入することが目的ではありません。
必要な時に役立つこと。そして暮らしを守ること。
そこに本当の価値があるのでしょう。
もしものために、今できる備えを

今回のお話を通して感じたのは、
保険は「商品」ではなく「安心」なのだということでした。
マンションを購入することは、資産を持つこと。
そして資産を持つということは、それを守る責任を持つことでもあります。
戸建てとマンションでは考え方が違う。
沖縄には台風という独自のリスクがある。
共同住宅だからこそ生まれる責任もある。
そうしたことを理解したうえで、自分の暮らしに合った備えを考えることが大切です。
住まいを持つことは、人生の大きな節目です。その先にある日々を、安心して過ごすために。保険を見直すことは、暮らしを見直すことにもつながるのかもしれません。何かが起きてから慌てるのではなく、何も起きない毎日を安心して過ごすために。
この機会に、ご自身の保険について少しだけ考えてみてはいかがでしょうか。
取材・文/新垣 隆磨