本屋がない町につくった古書店ーブックパーラー砂辺書架がつくる「場」のはなしー
「北谷に本屋を作りたい」
そう思い立ってから畠中さんが選んだのは、
アメリカから輸入された黄色いスクールバスでした。
2022年11月にオープンした「ブックパーラー砂辺書架」は、
絵本・沖縄本・洋書を中心に並べる古本屋。
この場所が大切にしているのは、
本を売ることだけではありません。
ランドセルを置いて遊びに行く小学生、
散歩の折り返し地点にするおばあちゃん、
県外から訪ねてくるファン——。
地元に、ふらっと立ち寄れる場所を作ること。
顔なじみができる場所を作ること。
畠中さんがずっと抱いてきた「場づくり」への思いを伺いました。

畠中 沙幸 さん ブックパーラー砂辺書架 店主
北谷町砂辺にある古本屋「ブックパーラー砂辺書架」の店主。幼少期から沖縄・アメリカ・東京などを転々とし、妊娠・出産を機に地元での場づくりを決意。2022年11月、アメリカ製の黄色いスクールバスを改装した古本屋をオープン。絵本・沖縄本・洋書の3本柱で、地域に根ざした「居場所」づくりを続けている。今年は沖縄中部を舞台にしたウィンメルブックの制作・クラウドファンディングにも挑戦中。
「ずっと、地元で何かをしたかった」
幼少期から沖縄、アメリカ、東京とさまざまな場所を転々としてきた畠中さん。どこに行っても、心のどこかにあったのは「地元・砂辺で何かをしたい」という気持ちでした。
「寺子屋みたいなことができたらいいな、と漠然と考えていたんです。自分がいろんな場所で過ごしてきた体験を、砂辺の子どもたちに伝えられるような場を作れたらいいなって。でも、じゃあ具体的に何をするの?というところが全然まとまらなくて」
そのもやもやが一気に形になったのは、妊娠・出産の時期。
「急にピンときたんです。移動式の本屋をやろう、って」
本がもともと好きだった畠中さん。自分だけの小さな本屋を作ることで、コミュニケーションが生まれる。聞かれたらシェアできる、寺子屋的な空間が作れるかもしれない。そんなイメージが、一気に湧き上がってきました。
鎌倉で気づいた「場」の力
なぜ「場づくり」だったのか。そのヒントは、妊娠・出産の時期に暮らしていた鎌倉にありました。
「鎌倉って、個人店がたくさんあって、ただお店として機能しているだけじゃないんですよね。店主との距離が近かったり、交流の場になっていたり、サロン的な雰囲気があったりして。週3日しか営業していないのにどうにか成り立っているような、一見不思議なお店が多くて」
育休中、赤ちゃんと二人きりで社会との繋がりが薄くなりがちだった時期。そんなお店が、かけがえない場所になりました。
「ベビーカーを押してふらっとそういうお店に入ると、みんなウェルカムで。店主と30分ただ喋って、なんか救われた、みたいな感覚があって。日常の中にそういうほっとできる場があるって、こんなに大事なんだって気づいたんです」
沖縄にも似た雰囲気がある。しかし北谷には飲食店はたくさんあるけれど、本屋はない。「自分がまず、そういう場所が欲しかった」という気持ちが、背中を押しました。
黄色いスクールバスが、本屋になった日

オープン当時の砂辺書架。
最初のイメージは、移動式の本屋でした。友人のお店の定休日に駐車場を借りたり、公民館を転々としたり。そんな自由な形を思い描いていたとき、畠中さんはあるものと出会います。
「神奈川県で、アメリカから輸入されたスクールバスを見つけちゃったんです。めちゃくちゃかわいいと思って、一応見に行って。そしたらもうイメージが湧いちゃって」
大きすぎて移動はできないかもしれない。土地もまだない。でも、もういいや、と思ったといいます。
「土地探しもバスの購入も、ほぼ同じタイミングで動き始めて。バスを沖縄まで船で運んで、港からここまで自走してきてもらいました。そこの手前の曲がり角を、業者さんが何十回も切り返しながら入れてくれて(笑)」
改装して、いよいよここに来たのが2022年11月。今年で丸4年になります。
新聞記事一本から始まった4年間

オープン当初、不安がなかったわけではありません。「北谷に本屋がないのは、需要がないからかもしれない」という言葉も耳に残っていました。
そんな中、改装中からインスタグラムで発信を続けていたところに、地元紙の記者から連絡が入ります。
「オープン直前から直後の約1ヶ月、密着して取材してくれて。それが新聞にドーンと大きく載ったんです。そうしたら新聞を見ましたって人が来てくれて、続けてテレビが来てくれて、雑誌が来てくれて……立て続けにメディアの方が来てくださるようになりました」
最初の半年は曜日の試行錯誤もありました。水木金土でオープンしていたところ、「日曜日なら行けます」という声が多いことに気づき、思い切って曜日を変更。日・月を中心にした不定休にしたところ、来客のタイミングが合うようになりました。
現在は、沖縄市プラザハウスでの本のイベントや、読谷村立図書館でのポップアップも継続中。地域のあちこちに「場」を広げています。
ランドセルを置いて遊びに行く
4年間でこのお店が育んできたのは、本を売る場所以外の何かです。
「たまに小学生の子がランドセルを背負ったままここに来て、カバンを置いてどこかに遊びに行くんですよ。その子のお母さんが仕事帰りに『うちの子どこ行った?』って探しに来て、『あ、やっぱりここだった』って(笑)」
そんな中、とても心温まる出来事があったと言います。
「ある日、いつも来てくれる子たちが、ほうきとちりとりを持ってきたんです。そして『掃除するよ』と言ってくれたこともあったんですよ。子どもはお金を持っているわけではないので、売り上げにはならないけど、そうやって気持ちで返してくれる。そういう関係性になれていることが、ほんと嬉しかったんです」
他にも、近所のおばあちゃんたちの散歩の折り返し地点にもなっているようです。暑ければ中に入ってきて、「あ〜涼しい図書館だねぇ」と涼んで帰っていく。「いや、古本屋ですよ」と訂正するけれど、「じょーとーじょーとー」と笑って去っていく。
「なんか一昔前の公民館みたいな感じです。しょっちゅう空いてないけど、空いてたら来たらいいよ、みたいな」
絵本、沖縄本、洋書。3つの柱
お店に並ぶ本の柱は、大きく3つ。絵本、沖縄本、洋書です。
「絵本が多いからお子さん連れが多いかな、と思ってたんですけど、蓋を開けたら大学生、カップル、おじいちゃんおばあちゃん、県外から来る人、海外から来る人……完全にバラバラで。絵本好きの大人の方も多くて、お子さんはもう独立したけど絵本が好き、という方もいらっしゃいます」
基地の近くという立地もあって、任務を終えて海外へ転勤するアメリカ人のお客さんが「沖縄の思い出になる本を持っていきたい」と訪ねてくれることも。
「そういう方に、歴史や文化や風景を、言語の壁なく届けられる本が欲しいなって、ずっと思っていて。それが今取り組んでいることにも繋がっています」
今年、ウィンメルブックをつくる

制作中のウィンメルブックのラフ画を見せてくれました。
畠中さんは今年、大きな挑戦に動き出しています。「ウィンメルブック」の制作です。
ウィンメルブックとは、1960年代のドイツで生まれた絵本の形式。街に人がいっぱいいて、文字がなく、見るだけで楽しめる絵本です。「ウォーリーをさがせ!」に近い感覚、といえばイメージしやすいかもしれません。文字がないからこそ、言語も国籍も関係なく、誰でも楽しめます。
「沖縄中部の実在する街を舞台に作りたいんです。砂辺、美浜、コザ、読谷、嘉手納……7つのシーンがあって、そこに実在する人、実在した人をキャラクターとして登場させてます。一見バラバラに見えて、全部の物語が繋がっている。最初のシーンにいるカップルが、最後のシーンでは赤ちゃんを抱いている、みたいな」
文字がないからこそ、伝えられることもあります。
「活字で発信すると衝突が生まれることも多い沖縄の歴史や基地の話も、文字のない絵本なら別のアプローチができる。沖縄戦がなかった世界線、基地がない世界線のパラレル琉球を描いて、『みんなでどんな街をつくりたいか』を投げかけたいです」
毎日お客さんと接する中で、沖縄戦の写真集を「ちょっときつい」と感じる人が多いこと、アメリカ人のお客さんが言語の壁なく楽しめる沖縄の本を求めていること——本屋をやっているからこそ気づけた視点が、このプロジェクトを動かしています。
現在、クラウドファンディングの準備が進んでいます。
地元に、顔なじみができる場所を

「どんな方に来てほしいですか」と聞くと、畠中さんはこう答えてくれました。
「誰でも来てくれてよくて。でも、一番嬉しいのは地元の人ですね」
北谷は新しいマンションも増え、移住してくる方も多い町。そういう人たちにとって、この場所が「入り口」になれたらと思っているそうです。
「私も県外に住んだことがあるので、わかるんですよ。引っ越した先に顔なじみができる場所があるのとないのとでは、全然違う。鎌倉のお店の店主に『こんにちは』と言ってもらえるようになって、初めて『あ、自分の街だ』って感じられたので」
ランドセルを置いていく小学生。散歩の折り返しにするおばあちゃん。本を探しに来る県外のお客さん。それぞれが、思い思いの使い方でこの場所を居場所にしています。
ふらっと立ち寄れる場所がある。話してもいいし、話さなくてもいい。そんなあたりまえの豊かさを、北谷の黄色いスクールバスは今日も静かに迎えています。
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ブックパーラー 砂辺書架 – シナビヌショカ-
沖縄県中頭郡北谷町砂辺45
Ig:https://www.instagram.com/bookparlor.shinabi?hl=ja
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取材・文/新垣 隆磨