沖縄の正月料理はおせちじゃない?沖縄ならではの料理と自宅での楽しみ方をご紹介(前編)
新しい年を迎える日、元旦だけは特別な料理を用意したい方も多いことでしょう。本土にはおせち料理がありますが、「沖縄にはおせち料理はあるのかしら?」「どのように用意すればいいのだろう?」と思ったことはありませんか?
今回は沖縄の正月料理について、沖縄県認証の琉球料理伝承人、かつ県認証の琉球料理が味わえる店の料理長である「なぎいろ」代表の伊波さんにお話しを伺いました。記事は2つに分けてお届けします。沖縄の正月料理を気軽に取り入れる方法も教えていただいたので、前編だけでなく後編までぜひチェックしてみてくださいね。
伊波良子さん
なぎいろ代表/沖縄県認証 琉球料理伝承人/沖縄県認証 琉球料理を味わえる店「首里 東道Dining」オーナーシェフ
首里城や琉球料理、夫との不思議な縁があり、広告代理店のクリエイティブディレクター時代に沖縄に呼ばれ、沖縄に嫁ぐ。現在は、なぎいろの統括料理長と2012年創業の首里城を一望する店「首里 東道Dining」でオーナーシェフを務め、琉球料理や宮廷料理のほか、世界の味と沖縄食材をフュージョンさせたオリジナル料理を提供。飲食業、製造業のほか、首里城復興プロジェクトや県産品の販売促進イベントの企画・運営、小中学生向けの琉球料理・沖縄食材講座のボランティア活動などさまざまなフィールドで活躍している。今後は、「おいしい琉球料理が作れる講座」の開設も予定している。
■なぎいろ
HP:https://nagiiro.com/
■首里 東道Dining
住所/沖縄県那覇市首里当蔵町2-13 4F
営業時間/11:30 – 15:00(14:30)
ディナー予約制 希望の時間~21:00
定休日/不定休
沖縄の正月料理の由来
伊波さん:「沖縄の正月料理を語るうえで、まず沖縄の伝統的な食文化、琉球料理の起源について少しお話しさせてください。琉球王国は『守礼の邦(=礼節を重んじる国)』を掲げて、訪れる外国のお客様を大切におもてなししていました。その精神は今もなお県民に受け継がれていますよね」。
琉球王国では中国から派遣された冊封使や日本の薩摩の在番奉行等をもてなすために料理や芸能に力を注いでいました。特に冊封使は半年余り滞在していたので、宴は国をあげての一大プロジェクトでした。こうして日中の影響を受けて生まれた宮廷料理が一般家庭に広がり、また同時に各地にある庶民料理とともに発展し融合してきたのが琉球料理です。
「沖縄には本土のようなおせち料理やお雑煮を食べる習慣はありませんが、琉球料理の中の宮廷料理やおめでたい席に供された料理が正月料理となっています。私の店の名前の由来となっている東道盆(トゥンダーブン)も正月料理として用いられます」。
昔の沖縄の正月料理
沖縄の祝い席で欠かせないのが豚肉料理。昔の沖縄では、年末になると家で飼育していた豚を潰し、お正月の準備をしていました。普段は粗食でしたが、お正月だけはごちそうの豚肉を食べてお祝いをしていたそうです。
別名「豚正月」とも言われています。今でこそ沖縄は豚食文化が定着していますが、17世紀前半までは牛肉を食べていました。17世紀後半になって牛は労役に必要なので屠殺して食べないよう禁止されたり、豚肉食や、家族・仲間と一緒に食べる「共食」の奨励もあり、豚食が民間に広がったのです。
主な正月料理といえば、先程の東道盆に盛り付ける花いか(クブシミの飾切り)、クーブマチ(魚の昆布巻き)、グンボーマチ(ごぼうの豚肉巻き)、シシかまぼこ(豚肉と魚のすり身のかまぼこ)、そして琉球料理の代表的な豚肉料理ラフテー(豚三枚肉の角煮)、クーブイリチ―(昆布の炒め煮)やドゥルワカシー(田芋の練り上げた料理)、チーイリチ―(豚の血の炒め煮)、スンシーイリチ―(メンマの炒め煮)、中身のお吸い物(豚の内臓を具にした澄まし汁)やソーキ汁(豚の骨付きあばら肉の汁物)、イナムドゥチ(具の多い白味噌仕立ての汁物)などもあります。
クーブイリチーに使う昆布は、「喜ぶ」の語呂合わせで「よろこんぶ」、田芋を使うドゥルワカシーは子芋をたくさんつけるので子孫繁栄を意味しています。本土のおせち料理にも同じ意味で同様の食材を使います。調理法はそれぞれ異なりますが、新年を迎える人々の願いは共通しているんですね。
「今あげた料理は一例で、もちろん地域ごとに異なります。琉球料理は、その地域で獲れる食材を生かしながら、その土地の習慣や文化風習に合った料理をする土産土法を基本に食を楽しむ文化です。今でいうガストロノミーですね。それをずっと昔からしている琉球料理は、ほんとうに素晴らしい食文化だと思います」。
共にお祝いする気持ちを琉球料理に込めて
「私どもなぎいろでは、ご家庭で簡単に温めるだけでお召し上がりいただける本格的な琉球料理を手作りし販売しています。特に名物料理でもあり人気の高い料理が『首里味噌ラフテー』です。琉球料理では味噌煮豚と言います」。
調理に時間を要するラフテーは、手間がかかるからこそ特別な日の料理としておすすめです。まさにお正月に相応しい料理ですが、忙しくて作る時間が無いとお困りの方も多いのではないでしょうか。そんな方でもお店の味をご自宅で楽しんでいただきたい、その想いで開発されたのが、冷凍真空パックのラフテーです。
開発当初はレトルトパックも検討していました。しかし加圧加熱殺菌を施すと風味どころか、琉球料理本来の特徴である素材の持つおいしさや深みのあるうまみが全て失われてしまいました。「どうしてもお店の味を届けたい」「手間暇かかる本物の琉球料理の味をご家庭で楽しんでもらいたい」という強い想いから、昔ながらの大鍋で3日間かけて仕込み、冷凍真空パック包装でご提供することにしました。輸送コストはかかるものの、こだわりの味をキープすることに成功。温めるだけで手軽に美味しくいただけるのは、まさにベストな答えになりました。
その他にもクーブイリチーやドゥルワカシー、首里のクファジューシーの素、アグーだし使用の中身のお吸い物等、お祝いの席にふさわしい琉球料理を揃えています。「お客様の幸せな時を一緒にお祝いしたい・・・」、首里のレストランで私たちがいつもお客様にしてきた創業から変わらないおもてなしの心を製品の一つひとつに込めています。普段にお召し上がりいただくのはもちろん、お正月や婚礼の顔合わせ、入学祝等ハレの日やお祝いの際、伝統の琉球料理でおもてなししたい、という方はぜひご利用ください。
なぎいろ誕生のきっかけ
結婚を機に、伊波さんが沖縄に移住したのは19年前。当初は料理人を目指していなかったそうです。そんな折、義父の畑でとれた野菜を食べたとき、あまりの美味しさに衝撃を受けました。
以降、沖縄の食材の美味しさと素晴らしさに目覚めていった伊波さんは、その魅力をもっと多くの人に知ってもらいたいと考え始めます。ご主人とはじめた飲食店開業を機に、料理の道へ。「なぎいろ」のこだわりや想い、今後の展望などを伺いました。
なぎいろが追求する愛情
「亜熱帯の風土に根差した沖縄の食材が持つポテンシャルの高さ、健やかなおいしさをお客様にいかに楽しみながらお伝えできるか、感動していただけるかを常に考えています。琉球料理は手間暇かかります。でも、だからこそ愛情が込められるのも琉球料理。時間のかかる料理を、妥協を許さず丁寧に作ることを心がけているのが最大のこだわりです。これを沖縄の方言でティーアンダ(手の油)が入った料理と言います。直訳すると少し面白く感じるかもしれませんが、人の心の温かさ、思いやりを私は感じます。またなぎいろは、命薬(ぬちぐすい)という沖縄の食の考え方を開発の基本としています。自分で選んだ食べ物は、自分の心と体を育み、命を作るものです。人間は動物や草花と同じ自然の一部ですから、人工的に精製した調味料や保存料等の添加物を製造工程では使用せず、食材の持つ本来のうまみやパワーを引き出すようにしています」。
料理をとおして伝えたいこと
まず伝えたいことは、琉球料理の価値だと語る伊波さん。「時間を惜しまず丁寧に作られて、美味しさもちゃんと保持していることが琉球料理の価値だと認識しています。日本各地の伝統的なもののほとんどは、熟練された高い技術力をもちながら手作りで手間と時間をかけていますが、琉球料理も同じなのです」。
また「今」に視点を合わせることも大切とのことでした。「今を生きる方々に喜んでいただける美味しい料理と新しさを追求することも、料理人として挑戦していきたいです。伝統とは、今の積み重ねだと考えています。昔の製法である『型』をつなぐことはもちろん、現代人の健康や生活スタイル、環境の変化を考慮しながら、今美味しいものや新しい食材を取り入れて、時代に合ったものづくりや料理を提案していきたい。きっと琉球王国時代の首里城の包丁人も今を生きる人々を幸せにするために同じように高い志をもって食材と向き合っていたんじゃないかなと、勝手に思いを馳せています」。
「なぎいろ」の今後の展望
「今おいしい料理」を「もっとおいしい料理」へ進化させたいとたくさんの夢をお話しされていました。その上で沖縄の魅力をより多くの方に知ってもらうために、できることは積極的に取り組んでいきたいとのこと。企業理念の「沖縄の今と昔をつなぐ」を基本に、次世代の方々が沖縄に興味を持つように導くことも大切なミッションなのだそうです。
後編では料理の盛り付けと詳しい解説を掲載しています。100円均一の商品を使ったおしゃれな盛り付けもご紹介!ぜひ続きもお楽しみください。
取材・文/金城八重子