沖縄でも、子どもの学びは育てられる。受験のプロに聞く、進路と住まいの整え方
沖縄への移住や住み替えを考えるとき、子育て世帯にとって気になることのひとつが、子どもの教育環境です。
沖縄でも、希望する学校を目指せるだろうか。県外の大学へ進学するためには、いつから準備を始めればよいのだろう。学校や塾への送り迎えは、毎日の暮らしにどれほど影響するのだろう。
海の近さや空の広さだけでは決められない、家族のこれから。住む場所を選ぶことは、子どもがどのように学び、どのような未来を描くかを考えることにもつながっています。
今回お話を伺ったのは、沖縄受験ゼミナールで個別指導部門を統括する、学習アドバイザーの根神祥子さん。大阪と沖縄で約16年にわたり、小学生から高校卒業生まで、幅広い年代の受験や進路に向き合ってきました。
本土とは少し異なる沖縄の受験事情から、住む地域と塾へのアクセス、家族の気配を感じながら学べるマンションの間取りまで。
沖縄で子どもの学びを育てるために、家庭で知っておきたいことを伺いました。

沖縄受験ゼミナール
運営管理部 個別指導課 課長/
学習アドバイザー
根神 祥子さん
沖縄受験ゼミナールの個別指導部門で、小学生から高校卒業生までの学習を支えている。
新しく入会する生徒や保護者への案内、既存生徒の進路指導、学習計画の作成、教材の選定、勉強方法のアドバイスなど、幅広い業務に取り組んでいる。
沖縄では、受験勉強を始める時期が少し遅い?

大阪で約4年、沖縄で約12年。
合わせて16年ほど、受験や進路の現場に携わってきた根神さんが、二つの地域を比べて感じる違いのひとつが、大学受験の準備を始める時期です。
「沖縄は、大学受験の勉強を始める時期がかなり遅いと感じます。高校3年生で部活動が終わってから、初めて塾に通い始める子も珍しくありません」
沖縄では、部活動に熱心に取り組む子どもが多い。高校生活の多くを部活動に注ぐ傾向がある。それ自体は、仲間と過ごす時間や、ひとつのことに打ち込む経験を得られる、大切な青春の一部です。
一方で、部活動が終わるまで受験勉強をほとんど始めないまま、高校3年生の夏を迎えるケースもあります。
根神さんが大阪で受験生を見ていた頃は、部活動を続けながら高校2年生の冬頃から塾へ通い、受験勉強と両立する生徒が多かったといいます。難関大学を目指す生徒のなかには、高校1年生から準備を始める子もいました。
「大阪では、部活動と塾を両方頑張る期間があることが当たり前でした。沖縄は、部活動をしている間は部活動に集中して、終わってから受験勉強を始める子が比較的多い印象です」
県内の大学を目指す場合は、もともとの学力によっては高校3年生からでも間に合うことがあります。ただし、県外の国公立大学など、琉球大学よりも難易度の高い大学を目指すなら、話は変わってきます。準備の開始が高校3年生になってからでは、厳しくなることも。
大切なのは、沖縄の周囲のペースだけを基準にしないこと。
県外の大学も選択肢に入れているなら、高校2年生の後半頃には志望校や必要な科目を確認しておきたいところです。部活動と並行しながら準備を始める。少し早く動くことが、子どもの進路の幅を守ることにつながります。
中学受験は、学校を「見せる」ところから始まる

沖縄県内で中学受験を考える場合、選べる学校は本土の都市部ほど多くありません。
昭和薬科大学附属中学校、沖縄尚学高等学校附属中学校、興南中学校といった私立中学校。加えて、開邦中学校、球陽中学校などの県立中高一貫校。これが主な選択肢です。
本土の都市部では、同じ程度の学力帯に複数の学校があり、校風や教育方針、通いやすさなどを比べて志望校を選べる地域もあります。一方、沖縄では学校ごとの難易度や入試形式に違いがあるため、子どもの学力や適性を見ながら志望校を定める傾向があります。
私立中学校では、国語、算数、理科、社会といった科目別の試験が中心。対して、開邦中学校や球陽中学校などの県立中高一貫校では、複数の教科を組み合わせた適性検査が行われます。覚えた知識を答えるだけでなく、文章や資料を読み取り、複数の情報をつなぎ合わせながら考える力。そこが問われます。
根神さんによると、難易度の高い中学校を目指す場合、小学校6年生になってから準備を始めるのでは遅いこともあるそうです。
「県外の中学受験塾では、小学3年生頃から通い始め、遅くても4年生頃から準備するという感覚があります。沖縄でも、昭和薬科や開邦などを目指すのであれば、それくらいの時期から始めないと厳しい場合があります」
ただし、親が一方的に受験を決めても、子どもの心がついてくるとは限りません。
「中学受験は、本人がその学校に行きたいと思えるかどうかが大事です。親が行かせたいと思っていても、本人にその気がなければ、なかなか勉強には向かえません」
まずは、学校説明会や見学会へ足を運んでみる。教室の雰囲気を見る。理科の実験などの体験企画に参加してみる。そうしたひとつひとつが、子どものなかに「あの学校に行ってみたい」という気持ちを芽生えさせることがあります。
沖縄では、身近に中学受験を経験した家族や友人がいない家庭も少なくありません。
だからこそ、親が答えを押し付けるのではなく、子どもが自分の目で学校を見て、興味を持つきっかけをつくる。それが、最初の受験準備になります。
高校受験で知っておきたい、内申点と進路の選択肢

県外から沖縄へ移住する家庭に、根神さんが特に知っておいてほしいと話すのが、高校受験の仕組みです。
本土の都市部では、公立高校を第一志望にしながら、私立高校を滑り止めとして受験することが一般的な地域もあります。公立高校で少し高い目標に挑戦し、不合格の場合は私立高校へ進学する。そんな選択ができます。
しかし沖縄では、高校から入学できる私立高校の数が限られています。志望する学力帯によっては、公立高校の代わりになる私立高校を見つけにくいこともあります。
「沖縄では、私立高校を滑り止めとして受ける選択肢が、県外ほど多くありません。そのため、公立高校を受験するときも、最終的には合格できる可能性の高い学校を選ぶ傾向があります」
少し高い目標に挑戦したいと思っても、不合格だった場合に進学できる学校が限られている。そうした沖縄ならではの事情が、志望校の選び方にも影響しています。
もうひとつ大きな違いが、内申点です。
高校入試における内申点の扱いは、都道府県によってかなり差があります。3年生の内申点しか見ない地域もあれば、2年生の2学期や3学期あたりから見る地域もある。3年間すべてが入試に関わってくる場合でも、3年生の内申点だけ比重を高くするなど、地域によって仕組みはさまざまです。
沖縄県の場合、3年間の内申点を均等に評価するのが特徴です。しかも、実技科目は1.5倍で計算されます。つまり、1、2年生の内申点も3年生と同じ重みを持ち、副教科の取り組みも軽視できません。
「中学3年生になってから受験勉強を頑張っても、1、2年生の内申点を後から変えることはできません」
当日の試験で高い点数を取れたとしても、それだけで内申点の不足を補えるとは限らない。3年間を通して、実技科目も含めたコツコツとした積み重ねが問われる。それが沖縄の入試の仕組みです。
「県外で内申点が十分に取れていない状態で、中学3年生になって沖縄へ引っ越してくると、学力は高くても志望校を選びにくくなることがあります」
沖縄への移住を検討している家庭は、できるだけ早い段階で現在の成績や内申点を確認し、転入先の学校や塾へ相談しておきたいところです。
また、沖縄県の高校入試では、従来の推薦入試に代わる特色選抜が導入されています。スポーツや資格などの実績がある場合でも、学力検査を受ける必要があり、日頃の勉強が欠かせません。
部活動や資格取得を頑張っているから、勉強は後からでも大丈夫。そう考えるのではなく、中学1年生の頃から毎日の授業や提出物を大切にする。受験直前の特別な対策だけでなく、ごく普通の学校生活の積み重ねが、数年後の選択肢を支えています。
塾選びは、住む場所と家族の時間にもつながっている

沖縄で子どもを塾へ通わせるとき、避けて通れないのが移動の問題です。
県外の都市部では、電車やバスを使い、子どもが自分で学校や塾へ通うこともできます。しかし沖縄では、自宅や学校の場所によっては、保護者の車による送り迎えが欠かせません。
高校生の塾や予備校は、学校や部活動が終わった後、19時頃から22時頃まで授業が行われることもあります。
部活動を終えた子どもを迎えに行き、渋滞のなかを塾まで送り、車内で夕食を取らせる。授業が終わる22時頃に、もう一度迎えに行く。
受験期の送り迎えは、子どもだけでなく、家族全体の一日のリズムを変えていきます。
「徒歩や自転車で通える範囲以外から来ている子は、保護者に送迎してもらっていることが多いです。県外では電車やバスを使って、自分に合った塾を選びやすいと思いますが、沖縄では通える範囲が限られてしまいます」
そのため沖縄では、指導内容を細かく比較する前に、学校や家から近いという理由で塾を選ぶ家庭も少なくないといいます。
だからこそ、子育て世帯が住む地域を選ぶ際は、現在通っている小学校だけでなく、数年後の中学校、高校、塾への移動も想像しておきたいところです。
ゆいレール沿線であれば、子どもが自分で移動し、帰りだけ保護者が迎えるという方法も考えられます。モノレールや路線バスを利用しやすい地域は、学校や塾の選択肢を広げやすい環境です。中部地域でも、国道330号など主要な道路沿いではバスを利用しやすい場所があります。一方、公共交通機関から離れた地域では、送り迎えを前提に生活時間を組み立てる必要があります。
住まいの価格や広さだけでは見えにくい、毎日の移動時間。
子どもが成長したとき、どのような学校を選べるのか。塾や部活動から、どのように帰ってくるのか。
マンションを選ぶときには、玄関の外に広がる交通環境も、家族の暮らしの一部として考えておきたいものです。
勉強する姿が見える、リビングという学習環境

子どもの学習環境を考えるとき、静かな個室や立派な学習机を用意することが大切だと思われがちです。
しかし根神さんは、家で勉強できる環境があるなら、特に年齢の低い子どもにはリビングでの学習を勧めています。
「家で勉強する大きなメリットは、親を安心させられることだと思っています」
塾の自習室や子ども部屋での勉強は、親から見えないこともあります。成績が思うように伸びなければ、「本当に勉強しているの?」と、つい疑心暗鬼になってしまうこともあるでしょう。その不安が、「勉強していないでしょう」という言葉になってしまうこともあります。
けれど、リビングで机に向かう姿を見ていれば、その子が何時から勉強を始め、どこで悩み、どれくらい頑張っていたのかが伝わります。
テストで100点を取ったときに、ただ「すごいね」と褒めるのではなく、「毎日あれだけ頑張っていたもんね」と、努力に結びつけた言葉をかけられるようになります。
「小学生のうちに『勉強すればいいことがある』と感じられた子は、その後も学習意欲が続きやすいんです。成績が伸びる、志望校に合格する。それだけじゃなくて、誰かが褒めてくれたり、できなかったことができるようになったり。そういう小さな喜びの積み重ねが大事だと思います」
根神さんは続けます。
「特に中学受験を考えているご家庭だと、成績を伸ばしてあげたいという思いから、厳しく接してしまうこともあると思います。でも、それで子どもが勉強を嫌いになってしまっては、本末転倒です。結果だけじゃなくて、頑張っている過程も、意識して褒めてあげてほしいですね」
勉強が好きか嫌いか、できるかできないかということ以前に、その子のなかで『勉強をすると、どんな経験が返ってくるのか』が大事。頑張っても認めてもらえないと、勉強はやっても報われないものになってしまう。
個別指導では、授業を担当する講師とは別に、根神さんが生徒の学習計画や使用する教材、勉強の進め方を考えています。
集中できる時間はどれくらいなのか。一日に進められる量はどの程度なのか。性格や生活リズムも見ながら、一人ひとりに合った方法を組み立てる。
そうした子どもたちを長く見てきたからこそ、勉強の内容だけでなく、努力を見守る人の存在も大切だと感じているそうです。
親の近くで勉強し、努力に気づいてもらい、声をかけてもらう。その小さな成功体験が、次もやってみようという気持ちを育てます。
マンションのワンフロアの間取りは、家族の気配を感じながら学べる環境をつくりやすいともいえます。
カウンターキッチンの向かいに小さな机を置く。ダイニングテーブルの一角を、宿題をする場所にする。リビングと隣の部屋をつなげ、家事をしながら子どもの様子を見られるようにする。
大切なのは、子どもだけの勉強部屋を最初から完成させることではありません。
幼いうちは家族のそばで学び、思春期を迎えたら個室で集中できるようにする。子どもの成長に合わせて、同じ住まいの使い方を少しずつ変えていく。
間取りに暮らしを合わせるのではなく、家族の成長に合わせて間取りを使いこなすこと。それが、長く心地よく暮らすための工夫になります。
県外進学を考えるなら、周囲より少し早い準備を

沖縄から県外の高校や大学を目指す場合、学力だけでなく、情報を集める時期にも意識を向ける必要があります。
沖縄では県内進学を希望する生徒が多く、周囲の友人や学校から得られる県外進学の情報が限られる場合があります。受験科目や試験方式、必要な学力、住居費や生活費。こうしたことを、家庭でも早めに調べておきたいところです。
周囲がまだ始めていないから、自分もまだ大丈夫。そう考えているうちに、県外の受験生との差が広がっていく可能性もあります。
志望校が明確に決まっていなくても、県外進学の可能性があるなら、高校1、2年生のうちに学校の情報を見始める。模擬試験を受け、自分の現在地を知る。受験に必要な科目を確認し、部活動との両立方法を考える。
早く始めることは、子どもを急かすことではありません。
時間に余裕があるからこそ、部活動も続けられます。志望校を比べたり、進路を迷ったり、別の道を選び直したりすることもできる。
受験のために暮らしを犠牲にするのではなく、子どもが大切にしている時間と、未来の選択肢を両方守ること。そのための、早い準備です。
沖縄でも、子どもの学びを支える環境はつくれる

「困っている人を助けられる仕事だと思って、この仕事を選びました」
そう話す根神さんは、勉強や進路に悩んでいた子どもが希望する学校へ進んだり、少しずつ勉強を好きになったりする姿に、仕事のやりがいを感じるといいます。
受験は、ただ合格するためだけのものではありません。
自分に合う学び方を知り、目標へ向かって努力し、周囲の人にその過程を見守ってもらう。そこには、進学した後の人生にもつながる経験があります。
沖縄への移住を考えている家庭のなかには、「沖縄では十分な教育を受けさせられないのではないか」と不安を感じる人もいるかもしれません。
確かに、本土の都市部とは学校の数も、交通環境も、受験を始める時期も異なります。
しかし、違いを事前に知り、家庭に合った準備をすれば、沖縄でも子どもの学びを支えることはできます。
学校の選択肢を早めに調べる。受験制度や内申点について確認する。塾への通いやすさを考えて住む地域を選ぶ。子どもの頑張りが見える場所に、小さな学習スペースをつくる。
どれも、特別なことではありません。
子どもがどこでつまずき、何に興味を持ち、どんな未来を思い描いているのか。その変化を近くで見つめながら、必要なときに手を差し伸べること。
夕方、学校から帰ってきた子どもが、リビングの机に教科書を広げる。キッチンから聞こえる料理の音や、家族の話し声に包まれながら、鉛筆を動かしている。
その姿を見て、「今日も頑張っているね」と声をかける。
沖縄での教育環境は、学校や塾だけで完成するものではありません。家族が選ぶ住まいと、毎日のなかで交わされる言葉によって、少しずつ育っていくものなのかもしれませんね。
※各校舎、対象学年、コースなどの詳細は、沖縄受験ゼミナールの公式情報をご確認ください。
取材・文/新垣 隆磨