「憧れなかった」からこそ見えてきた──移住者インテリアコーディネーターが語る、沖縄マンション暮らしの本音
「沖縄大好き、移住したい!」というタイプではなかったと笑う河越結衣さん。ご主人の仕事の都合で今年の夏に沖縄に移住し、東京でのマンション開発・販売の経験を活かして、フリーのインテリアコーディネーターとして活動を始めました。期待値が高くなかった分、むしろスッと馴染めたという彼女が語るのは、移住者だからこそ気づく「沖縄と東京のマンション事情の違い」。価格、駐車場、家具の配送、そして湿気対策。マンションのクオリティは本土と変わらないのに、知っておくべきポイントは確かにある。移住を考える人に向けて、リアルな視点でお届けします。

河越 結衣さん
インテリアコーディネーター、宅地建物取引士
東京で分譲マンション開発・販売や仲介業などを経てインテリアに興味を持つ。
ご主人の仕事の都合で今年7月に沖縄へ移住し、フリーのインテリアコーディネーターとして本格始動。工務店の業務委託として注文住宅の内装・設備選定に携わるほか、民泊施設やご自宅のコーディネート、マンションのモデルルームも手がける。
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「箱を作る」より「暮らしを作る」──インテリアへの転身
河越さんは学生時代に宅地建物取引士の資格を取得し、新卒から不動産業界に身を置いてきました。賃貸マンションの管理会社では、「この間取りにすれば賃料が高く取れる」といったオーナー向けのコンサルティングを担当。その後、東京建物で分譲マンションの開発・販売に携わり、一時はモデルルームでの接客も経験しました。
「分譲マンション開発の中で、モデルルームを作る業務に関わったのがきっかけでした。『箱を作る』ではなく『暮らしを作る』方が、私には合っているかもしれないと気づいたんです。」
その気づきから、東京にいる間にインテリアの学校に通い、社内でもインテリア関連の業務を積極的に担当。そして沖縄移住を機に、フリーのインテリアコーディネーターとして本格的に活動を始めました。
「工務店の業務委託として注文住宅の内装や設備を決めたり、照明計画を立てたりしています。個人のお客様からは、SNSやご紹介で民泊施設やご自宅のコーディネートを依頼いただくことも。言語化しやすいように、たくさんのインテリアスタイルを提示して、イメージを膨らませてもらうことを大切にしています。」
意外にも「東京と変わらない」沖縄のマンション事情
移住前から沖縄の物件情報をチェックしていたという河越さん。実際に暮らしてみて感じたのは、「いい意味でも悪い意味でも、マンション事情はあまり変わらない」ということでした。
「最近は東京や大阪資本の会社が沖縄で分譲マンションを供給するケースが増えています。設備や仕様のクオリティは、本土の物件と変わらないレベルになっていて、むしろ驚きました。」
換気設備、キッチンやトイレなどの水回り、全体的な仕様の良さ。本土の大手デベロッパーが手がけるマンションと比べても、遜色ないクオリティが沖縄でも実現されているのです。
しかし、価格面では厳しい現実もあります。
「移住直前まで、前職では千葉のタワーマンションを担当していたのですが、那覇市内の新築マンション価格は千葉とほとんど変わらないんです。でも、沖縄と本土では賃金水準に差がありますよね。地価の上昇率も沖縄はすごく高い。その中でこの価格帯というのは、沖縄の方にとって正直厳しいなと感じています。」
設備の充実度が上がっている分、価格も上昇。本土と同等の価格帯になっているのが、沖縄の新築分譲マンション市場の現状です。
移住者が直面する「駐車場問題」と「車社会」のリアル

東京との最大の違いとして河越さんが挙げるのが、駐車場の確保の難しさです。
「東京のマンションだと、駐車場の附置率は30〜40%程度が一般的です。車を持っていない世帯も多いので、むしろ駅の近さの方が重視されます。でも沖縄では車が必須ですよね。」
沖縄では電車がゆいレールのみのため、ほとんどの世帯が車を所有しています。一家族で2台持っているケースも珍しくありません。
「最近の沖縄の新築マンションは、駐車場附置率は150%程度、東京に比べるともちろん多いですが沖縄の車事情から考えるともちろん足りない。私自身、最近までマンション内の駐車場を確保できませんでした。」
土地の確保が難しくなり、価格も上昇している沖縄では、マンション内に十分な駐車場を設けることが困難になっています。駐車場確保のためのコストが、さらにマンション価格を押し上げる要因にもなっているのです。
「東京だと電車通勤が主流ですが、沖縄では車がないと生活が成り立たない。その分駐車場をしっかり確保していることが、物件価格高騰の要因のひとつだと思います。」
「期待しなかったから、スッと入れた」──生活面のギャップ
「正直に言うと、私は『沖縄大好き、移住したい!』というタイプではなかったんです」と河越さんは笑います。
「沖縄移住される方って、沖縄特有の自然とか海とかに憧れてという方が多いと思うんですけど、私にはそれがなかったので。期待値が高くなかった分、スッと移住して生活を始められました。」
那覇市内に住んでいることもあり、日常生活での不便さはほとんど感じていないといいます。
「普段の生活で不便さを感じたことは全くないです。ただ、やはり車がないと厳しいなというのは実感しています。近くにスーパーがあるとはいえ、車は必須ですね。」
一方で、意外だったのは「沖縄らしさを感じる場面が少ない」ということ。
「海が見えるとか、自然を感じられる地域に住んでいるわけではないので、なんかもう東京と変わらないなって。生活費もあまり変わらないです。外食費はこちらの方が少し安いですけど。」
道路の狭さや渋滞は、想定していた沖縄ならではの注意点でした。
「時間を間違えると、渋滞がすごいことになります。道路も狭いですし。通勤においては、電車の方が私は楽だったかなと思いますね。電車だと座って本を読んだり作業したりできますが、車だとそうはいきませんから。」
日差しの強さと「日焼けするインテリア」への配慮
インテリアコーディネーターとして沖縄で仕事をする上で、河越さんが特に気をつけているのが「日差しの強さ」です。
「沖縄でコーディネートをする上で一番気をつけているのは、やはり日差しの強さです。フローリング、カーテン、壁紙クロスなど、日焼けは東京でも沖縄でもするものなんですが、沖縄は日照時間も長く、日差しが強い分、日焼けの進行も早いと感じます。」
家具も日焼けするため、お客様にはその点をきちんと理解していただいた上で、素材や色を選んでもらうよう心がけているそうです。
「壁紙を選ぶ際も、手元のサンプルで見る色と、実際に自然光が当たる壁面で見る色では、かなり印象が違います。実物がどういう風になるかをきちんと想定してもらった上で、お選びいただくことが大切です。」
プロの目から見ても、沖縄の日差しの強さはインテリアに影響を与える重要な要素なのです。
「沖縄に配送できない家具」──知られざる課題
インテリアコーディネートの仕事で、河越さんが最も苦労しているのが「家具の配送問題」です。
「『沖縄・離島は除く』という文言、県民の方なら誰もが見たことがあると思います。配送料が高いのはもちろんなんですが、そもそも配送不可という家具も少なくありません。」
お客様に提案しようと思っていた家具が沖縄に配送できないケースが、この半年間で何度もあったといいます。
「提案する際は2案か3案はご提案いたしますが、その段階で『これいいな』と思っても、沖縄に配送できないので提示すらできない。納品までの時間もかかりますし、そこが一番の課題ですね。」
そのため河越さんは宜野湾や沖縄市、那覇や豊見城など、県内の家具店を一通り回り、県内の在庫状況を定期的に自らの目で確認しているそうです。
「特にソファやチェアは座り心地が個人によって大きく異なるので、できれば実物を体験できる家具を提案したいんです。そうなると、県内に在庫や展示があるものに限られてくるので、提案の幅は少し狭まりますね。」
県外の家具を希望するお客様には、東京出張の際に店舗で座ってみることを勧めることも。家具選びにおいて、沖縄ならではの制約があることを知っておく必要があります。
湿気対策は「築浅マンション」と「ガス乾燥機」で解決
沖縄といえば「湿気」が心配という声をよく聞きます。しかし河越さんは、マンション暮らしで湿気に困った経験はないといいます。
「沖縄に来る前は『湿気がすごい』『カビが生える』とさんざん脅されていたんですが(笑)、今のところ全く困っていません。梅雨はまだ経験していないんですが、家の中が湿っているとか、カビが生えそうとか、そういったことは一切ないです。」
その理由は、マンションの換気設備や湿度コントロール機能が優れているから。
「マンションは換気設備がしっかりしていて、湿度対策が優れているんです。戸建てももちろん法律に則った換気設備はありますが、特に築浅のマンションであれば、湿気も快適にコントロールできていると思います。」
さらに、最近の物件ではガス乾燥機が標準装備されているケースも多いそうです。
「うちもガス乾燥機(乾太くん)がついているので、洗濯にも困ったことがないですね。ガス乾燥機が標準装備の物件を選ぶと、湿気の多い時期でも快適に暮らせますよ。」
湿気への不安は、マンション選びの段階で設備をチェックすることで解消できるのです。
移住前に知っておきたい「住まい選び」のアドバイス
半年間の沖縄生活を経て、河越さん自身が反省点として挙げるのが「土地勘を持たずに物件を決めてしまったこと」です。
「私の個人的な反省点なのですが、もう少し土地勘を持った上で物件探しをすれば良かったなと思っています。沖縄は東京以上に、自分のライフスタイルによって住む場所が左右されるエリアだと感じます。」
例えば、職場の場所、車を持つか持たないか、スーパーや病院へのアクセス。これらを総合的に考えて、自分がどこに住めば暮らしやすいかを想像する必要があります。
「私たちは那覇市の中心部に近い場所を選びました。実はペーパードライバーだったので、公共交通機関へのアクセスが便利な場所を意識していたんです。でもどうしても運転しなければいけない環境なので、少し運転も慣れてきました。そうなると、もっと郊外でも良かったなと。今の場所だと高速道路へのアクセスも遠いですし。今住むなら、多分違う場所を選んだと思います。」
理想は、まず数ヶ月間は仮住まいで暮らしてから、本格的な住処を見つけることだといいます。
「許されるのであれば、借り住まいのような形で数ヶ月住んでから、ちゃんとした住処を見つけたかったなと思います。実際に生活してみないと、自分に合うエリアは分からないですから。」
住まい選びで確認すべきポイント:
- 築浅のマンションであれば、湿気対策も万全
- ガス乾燥機が標準装備かどうか
- 都市ガスかプロパンガスか(プロパンの方がガス代は高め)
- 駐車場が確保できるか
- 職場や高速道路へのアクセス
- 自分のライフスタイルに合った立地か
「コミュニケーションを取ること」が沖縄暮らしの鍵
取材の最後に、河越さんは沖縄暮らしを楽しむためのヒントを教えてくれました。
「沖縄の方って、すぐ話しかけてくれたり、仲間をすごく大事にする風土があると思うんです。ビジネスにおいては、紹介がないと繋がるのが難しい面もありますが、それは仲間を大切にする文化の裏返し。そこを理解しつつ、自分も積極的にコミュニケーションを取って楽しむことが大事だと思います。」
移住者コミュニティには特に参加していないという河越さんですが、沖縄の方々と自然に繋がることを大切にしています。
「行きつけのお店もできましたし、仕事関係でも沖縄の方とも仲良くなることができました。経営者の会に誘っていただいて、地元の方々との交流も増えて。すごく充実して楽しい生活を送っています。」
「期待していなかった」はずの沖縄が、今では「東京にいた時と変わらず、いや、それ以上に楽しい」場所になっているのです。
「現実的な視点」で選ぶ、充実した沖縄マンション暮らし
移住者の視点だからこそ見えてくる、沖縄マンション暮らしのリアル。設備のクオリティは本土と変わらないレベルに達している一方で、価格、駐車場、家具の配送など、知っておくべき課題もあります。
しかし、築浅マンションの湿度コントロール機能やガス乾燥機などの設備を選べば、快適な暮らしは十分に実現できます。何より大切なのは、自分のライフスタイルに合った場所を、実際に土地勘を持った上で選ぶこと。そして、沖縄の人たちと積極的にコミュニケーションを取ること。
「沖縄への憧れ」ではなく「現実的な視点」で移住することが、充実した沖縄暮らしへの第一歩なのかもしれませんね。
移住計画にゆとりを持つためにも、emoHで物件の詳細を見るのがおすすめです(笑)
取材・文・写真/新垣 隆磨