DIYで生まれる“余白”──沖縄のクリエイター・タイシロウさんが教えるマンション暮らしアップデート術
コロナ禍、キャンプにも行けず、居酒屋も開いていなかった頃。「じゃあ、ガレージを自分の基地にしてしまおう」と手を動かし始めたのが、タイシロウさんのDIYガレージの出発点でした。インテリアデザインの現場で大工さんに弟子入りし、木の性質や道具の使い方を一から学んだ経験は、今、ホームセンター・メイクマン公式アンバサダーとして「暮らしを変えるDIY」を伝える活動へとつながっています。賃貸でもマンションでも、壁に穴を開けず、今より少し“自分の好き”に寄せていく空間づくり。そのはじめの一歩と、DIYがくれる“自分に戻る時間”について伺いました。

タイシロウさん
DIYクリエイター、ラジオパーソナリティ、そしてメイクマン公式アンバサダーという、複数の顔を持つ。YouTubeやSNS、ワークショップを通して、幅広い世代へDIYの楽しさを伝えている。
tai_higa タイシロウ インスタグラム
https://www.instagram.com/tai_higa/
キャンプに行けなかった日から始まった、ガレージDIY
“最初は、キャンプに行けない時間つぶしのつもりだったんです”と笑うタイシロウさん。しかし、余っていた木材に触れ始めると、ものづくりの熱は一気に加速しました。最初はガレージの一部だけいじるつもりだったのに、夢中で手を動かすうちに空間全体へと広がり、今では大人の秘密基地のようなアトリエに。
インテリアデザインの仕事をしながら、現場大工と接する機会が多かったタイシロウさんは、“自分は現場を分かっていない”と痛感し、現場に飛び込んで教えを乞うた経験を持ちます。木のクセ、切り方、組み方、適材適所。その基礎学習が、オリジナルガレージDIYを支えています。
やがて音楽活動との相乗効果で、メイクマンのアンバサダーとして活動するようになり、“DIYで暮らしを変える”という視点はより多くの人の手に届くようになりました。
「原状回復できるDIY」で、マンションの自由度を上げる

ガレージの壁、床、天井。実はどこにも穴が開いていません。天井と床をつっぱる形で柱を立て、その柱に棚板を差し込むだけで、強度のある収納システムを作り出しています。揺らすと少し揺れるほどの“余白”はありますが、日常使用には十分。なにより解体すればすぐ元通りになる、“原状回復型DIY”です。
この工法は、マンションでも広く応用できます。例えば、貼って剥がせる壁紙や床材。摩耗に強く、柄も豊富で、置くだけで部屋の印象ががらりと変わります。ホームセンターでは木材カットも依頼できるため、“自宅では組み立てるだけ”にすることも。ハードルは一気に下がるので、女性でも気軽に始められます。
“マンションは手を加えにくい”という読者の不安に対しても、“やり方を選べば、自由度はもっと上がる”と優しく背中を押してくれます。
“よく使うもの”から始める、暮らしを変える一歩
DIYを始めるとき、多くの人が“棚を作ってみたい”という大きめの目標を掲げます。しかしタイシロウさんは、“一番よく使うものから作ること”をすすめます。それは、キャンプ道具選びと似ています。家でも使えるチェアやタンブラーから揃えると、生活に溶け込みやすい。DIYも同じで、毎日手に触れるものを変えると、生活が驚くほど変わります。
玄関の鍵置き、コーヒーテーブル、子どものおもちゃ棚。生活の中で“ここがちょっと不便”と感じる場所に、小さなDIYを加えるだけで、暮らしは確実に快適になります。ワークショップで“0→1”のスキルを伝えるとき、“知らなかった”“こうやって使うんだ”と目を輝かせる参加者を見ると、タイシロウさん自身も嬉しくなるそうです。
眺めてニヤニヤする時間が、「自分に戻る」余白になる

「このテーブル、僕にとっては百点満点なんですよ。既製品にはないサイズ、理想的な高さや幅、そして何より“自分のために作られた”という感覚がたまらなく愛おしくなります。」それが、タイシロウさんのDIY作品に共通する愛情です。
ガレージ空間も同じ。“僕だけが最高得点を出せる空間”だと語るように、誰かが使うと少し不便かもしれない。でも“自分”にとっては完璧。その“偏愛”こそが、DIYの醍醐味です。
コーヒーを淹れる場所、お香を焚く場所、音楽を流す場所。部屋づくりと動線づくりが重なり合う時間は、心を整える“余白時間”。子どもが手作りのおもちゃキッチンにシールを貼って、自分の世界を作っていく感覚にも似ています。そのワクワクが、大人にもちゃんと残されているのだと気づかせてくれる空間。タイシロウさんは終始”ニヤニヤ”しています。
失敗も次のアイデアになる、“育っていく暮らし”
最初に作った棚は、薄い板を使ったせいで荷物の重みでたわんでしまったそうです。そこから“どうすればたわまないのか”を学び、板の厚みを変え、補強を入れ、構造そのものを改善していきました。
DIYは、“失敗”が次の設計図になる世界です。暮らしの不便に気づき、改善し、また少し好きになる。そうして暮らしは少しずつ“育っていきます”。完璧を目指さなくていい。むしろ“失敗を楽しむくらい”でちょうどいいと、タイシロウさんは話します。
マンション暮らしでもできる、DIYアイデアのヒント
マンションや賃貸でも始めやすいDIYの例として、タイシロウさんはいくつかのアイデアを提案してくれました。玄関に鍵やマスクを置くための小さな棚。リビングの一角につくるコーヒーテーブル。子どもの目線に合わせたおもちゃ棚。どれも“生活の不便を小さく解決する”視点から生まれたDIYです。
最初のステップは難しくありません。“ここ、ちょっと使いづらいな”と気になる場所を見つけ、そこで叶えたい動きを軽くメモする。そしてホームセンターのDIYアドバイザーに相談し、木材はカットしてもらう。最後に自宅で組み立て、色や質感を好みに寄せるだけ。穴を開けたくない場合は、つっぱり構造や置き家具、貼って剥がせる素材を活用すれば大丈夫。
またタイシロウさんのSNSやワークショップで、まずは体験してみるのもおすすめです。ぜひ情報をチェックしてみてくださいね。
「DIYは、あなたの人生を変えうるもの。」
取材の最後に、タイシロウさんは静かに、しかし力強くこう語りました。
“DIYって、すごく大きく言えば人生を変えうるものだと思っています。まずは生活のなかで‘ここが変わればいいのに’と思う場所を、一か所だけ変えてみてほしい。その一歩が、暮らしの質も、自分の時間の質も、はっきり変えてくれると思うんです。”
マンションの一室でも、大きなガレージがなくても、暮らしを好きになるヒントはきっと身近にあります。小さな一歩から、余白ある暮らしは始まります。
取材・文・写真/新垣 隆磨