沖縄に平和のシンボル「陽光桜」を!幸せな暮らしへの感謝をサクラに込めて。

沖縄に「3月の桜」を届けたいと活動する男性がいます。皆さんは、平和を象徴する「陽光桜」という桜をご存じでしょうか?沖縄の桜といえば、1月から2月にかけて咲く「カンヒザクラ」が主流ですが、そんな沖縄に陽光桜の植樹活動を行う方がいます。今回は、「陽光桜」に隠されたストーリーとそれに魅せられた男性の活動をご紹介します。

新垣隆男さん
「我がーやいまの自然環境を考える会」会長
石垣市新川出身。
定年後に八重瀬町で農業を営みながら、2024年から石垣市や沖縄本島で「陽光桜」の植樹活動を行う。「沖縄の豊かな自然を受け継いでいきたい」との思いで、自然保護の活動も行う。
新垣隆男さんと「陽光桜」のストーリー
「自然を後世に残したい」という思いで、ふるさとの自然保護を訴える活動などを行ってきた新垣さんが「陽光桜」と出会ったのは2024年のこと。陽光桜とは?そして、そこにどのようなストーリーがあったのか、伺いました。
「陽光桜」ってどんな桜?
陽光桜とは、「カンヒザクラ」とソメイヨシノ系の「アマギヨシノ」を掛け合わせて開発された桜で、3月中旬〜下旬にかけて満開を迎える桜です。沖縄では気候の関係で葉桜で咲く場合が多いようですが、ピンク色の花を咲かせ、花ごとポトリと落ちます。
現在、沖縄県本島では、那覇市の「真嘉比遊水地多目的広場」で見ることができるようです。
平和のシンボル「陽光桜」に隠されたストーリーとは
ストーリーは戦時中までさかのぼります。その渦中の人物は、約80年前の戦争末期、愛媛県で学校教諭として勤務していた高岡正明さん。高岡さんは、徴兵された教え子を時代に逆らえず桜の下で見送ったといいます。「絶対死ぬな、またこの桜の木の下で再会しよう」と。しかし高岡さんの願いは叶わず、シベリアや東南アジアなどに向かった教え子たちが戻ってくることはありませんでした。
「自分が死なせてしまった」と自責の念に苦しんだという高岡さん。その後、「生徒たちに桜を見せてやりたい」というその強い思いから、私財を投げうち、30年の時間をかけて桜の開発に取り組みます。その結果、カンヒザクラと白色のアマギヨシノを掛け合わせ、寒さにも暑さにも強い「陽光桜」を作り上げたのです。
高岡さんの強い思いで作り上げられた陽光桜は、まさに「平和のシンボル」と言える桜なのです。桜は沖縄のような亜熱帯地域や寒冷地に根付かないとされていますが、陽光桜は根付くそうです。現在、陽光桜は高岡さんのご子息が遺志を継ぎ、愛媛県から全国に広がっているのです。
「沖縄には桜並木が少ない」。新垣さんと陽光桜の出会いとは
新垣さんが陽光桜と出会ったのは、わずか1年ほど前。新垣さんは、昭和22年・イノシシ生まれの同級生らと川柳などを読み合う「うむざ会(うむざ=八重山の言葉でイノシシの意)」を主宰しており、毎月26人のメンバーから川柳やコラムなどの寄稿文を募っているといいます。1年ほど前、会員の山城晃さんという方の寄稿文が新垣さんの目に留まりました。この桜への思いは人一倍強いものがあった山城さんの文章をみて初めて陽光桜を知り、その話に心動かされたそうです。
元々自然や花が好きだった新垣さん。沖縄の桜といえば、1月から2月にかけて咲くカンヒザクラ。しかし、沖縄県外のような桜並木は沖縄に数えるほどしか存在せず、春の訪れとともに桜並木を歩く光景は限られた場所でしか見ることができません。かつて、本土の桜の木の下で花見をした自身の経験が、桜の下で仲間と集う特別な時間の記憶が今も心に残っているそうです。「あの感動を沖縄でも分かち合えたら—」。そう思い、沖縄に桜並木をつくる夢を胸に秘めてきました。「桜には、人の心を豊かにする力がある」と新垣さんは語ります。
「『散る桜 残る桜も 散る桜』は良寛和尚の辞世の句と言われています。春の桜でしか感じることができないその情緒を、沖縄でも多くの人に味わってほしい」。いよいよその思いが募った矢先に陽光桜の存在を知った瞬間、新垣さんは迷わず「陽光桜を沖縄に根付かせようと」決意したのでした。
新垣さんの植樹活動
新垣さんは、陽光桜を広めるために日々行政との交渉など精力的に活動しています。ふるさとの石垣市では、「我がーやいまの自然環境を考える会」で20人以上の仲間とともに植樹活動を行っているほか、八重瀬町の「八重瀬公園」には10本の苗木を進呈。現在は鉢植えで苗が育てられており、地植えへの準備が進んでいます。
昨年末には一般の方からも注文が相次ぎ、約100本を愛媛県から取り寄せ県内各所へと植えられました。「普通は2~3年しないと咲かないのに、今年の3月に『もう咲いたよ!』という報告もあり驚いた」と新垣さんは目を細めます。
さらには「陽光桜を育てる会」というLINEグループも立ち上げ、陽光桜の輪は少しずつ広がっています。「挿し木でどんどん増やして、市町村や学校にも広げたい」と新垣さんの意気込みは尽きません。
暮らしのそばでも楽しめる!「陽光桜」を取り入れよう
陽光桜は、手軽に楽しむことができる桜です!マンションやマイホームでも実践できる方法をご紹介します。
マンションでも楽しめる「陽光桜」
特にオススメなのは、マンションのエントランスへの植樹。「満開の時期には『どこのマンションだ?』と噂になること間違いない!ひいてはマンションのオーナーさんの心まできっと伝わる」と新垣さん。
ポイントになってくるのは、やはり管理面。根が張る木なので、コンクリ-トの花壇を作るのが最善。注意点は、5月・6月の虫が付きやすい時期の虫の駆除や薬剤を使ったその予防対策、肥料を与えることです。多くの場合、マンションなどの植物は造園会社などが管理することが多いので、委託をするのが良いでしょう。
個人でも楽しめる!「マイ桜」!
陽光桜は意外にも、個人で育てることもできるのですよ!ベランダやバルコニーに、直径1メートル程度の鉢を用意すれば植えることができるので、盆栽のような感覚で「マイ桜」を育ててみても良いかもしれません!
「手間暇かけると良い桜が育つ」と笑顔を見せる新垣さん。生命力が強い桜なので、接ぎ木や挿し木で増やすこともできるそうです。
陽光桜へ込められた思い
新垣さんが惹かれたのは、陽光桜に込められた平和の願いと、花を通して人々の心を豊かにしたいという強い想いです。
陽光桜と出会ってわずか1年ほどとは思えない行動力と思いを持ち合わせる新垣さん。「沖縄の人にも、花を愛でるという感覚をもっと知ってほしいのです。花を愛でると自然と心が豊かになる。その感覚を次世代に伝えることも、私にとって大切な使命。自分はもう77歳。陽光桜の存在をもっと早く知りたかった」と悔しさもにじませつつも、「今からでも遅くない」と、1本でも多くの陽光桜を沖縄に根付かせるため、日々活動を続けています。
新垣さんの今後の展望
「次は学校にも植えたいんです」。新垣さんは、陽光桜を子どもたちが身近に感じる場所に植樹することを目指しています。また、公園など、地域の人たちが協力して管理できるような仕組みづくりにも取り組みたいとのこと。陽光桜を通して、人と人とのつながり、そして自然との共生を目指しています。
花がもたらす心のうるおい「花心」
新垣さんは、陽光桜の持つ「思い」や「情緒」を広く伝えたいと考えています。「花心(はなごころ)という言葉があります。花にも心がある。その心を感じ取れるかどうかが、人の感性や豊かさにつながっていると思うんです」と優しく語ります。「桜を見て感動する心、その感動を誰かと共有することが大事なんです。次の世代の子どもたちにも、『花はきれいだ』と感じる心を持ってほしい」と願っています。
まとめ
仲間を思い、人を思い、一人の人の純粋な思いで作られた特別な桜がそこにはありました。陽光桜の花言葉は「美しき精神」。人を思う心(精神)こそ、私たちそれぞれ自分自身の心を豊かにする根源なのかもしれません。来年の春にまた陽光桜が沖縄でも見られることを願い、自然を愛する心を育んでいきたいものです。
取材・文/札本咲子