“守り神”をつくる人の話。やちむん家4代目が語る、シーサーと暮らしの関係
「シーサーって、一軒家に置くものじゃないの?」
そう思っている方も多いかもしれません。
沖縄の守り神として知られるシーサーですが、実はマンションでも迎えることができます。玄関やリビングに置くだけで、暮らしに安心や温もりを添えてくれる存在です。
今回お話を伺ったのは、読谷村の工房「やちむん家」4代目・新垣優人さん。父であり”親方”の背中を見てこの道に入り、伝統を受け継ぎながらも、現代の暮らしに合うシーサーを生み出しています。
一つとして同じ表情はない。”自分だけの守り神”と出会う感覚。
シーサーの意味から、マンションでの置き方まで──。
暮らしに取り入れたくなる、その魅力を伺いました。

新垣優人さん やちむん家 4代目
読谷村で工房「やちむん家」を継ぎ、4代目として活動。父・新垣光雄さんの技法を受け継ぎながらも、現代の暮らしに寄り添うシーサーを制作。一つひとつ異なる表情を大切にし、県外から訪れるファンも多い。オーダー制作や新たな表現にも挑戦しながら、「自宅に守り神がある」という文化を広げている。
大学3年、「こうなりたい」と思った日

新垣さんがシーサー職人の道に入ったのは、21歳のとき。
それまでは福祉の道を志し、老人ホームで働きながら将来を考えていました。おじいちゃん、おばあちゃんと話すことは好きだった。でも、大学3年の実習で「これを仕事として続けていく未来」をリアルに想像したとき、ふと立ち止まったといいます。
そんな時、目の前にあったのが、父が制作していた大きな龍の作品でした。
「清水寺に奉納した、高さ約2m80cmの作品です。小さい頃から工房は身近な場所でしたが、その時初めて、『こうなりたい』と強く思ったんです」
ずっと心のどこかに、やりたい気持ちはあったのかもしれない。でも、それは”仕事”としては考えていなかった。迷いの中にいたからこそ、その思いが一気に形になった瞬間でした。
父ではなく「親方」の背中を追って
この道に入ってから、新垣さんは父のことを「親方」と呼ぶようになりました。
家族としての父ではなく、職人として尊敬する存在になったからです。
「やちむん家には、それぞれ異なる表現を持つ職人がいます。でも根っこにあるのは、みんな『親方のシーサーが好き』という気持ち。怖い顔、細かな毛並み、筋肉の流れを感じる力強い体つき。その作風に惹かれて、ここに集まってくるんです」
新垣さんもまた、親方の表現を土台にしながら、自分のスタイルを広げてきました。教わったとおりに作るのではなく、見て学び、試して、積み重ねていく。そうした日々が、新垣さん独特の「表情」につながっています。
シーサーは、魔除けと福を招く守り神

そもそも、シーサーとは何か。
「私たちの考えとしては、まず『魔除け』として作っています。そこに『福を呼んでほしい』という意味を重ねているんです」
だからこそ、顔は怖く、体つきは強そうに。見た目の迫力には、きちんと意味があります。ただかわいい置物ではなく「家を守る存在」として生み出されているのです。
一軒家の門や屋根の上に置かれているイメージが強いシーサーですが、その本質は、住まいとそこに暮らす人を守ること。そう考えると、住まいの形が変わっても、シーサーの存在は今の暮らしに自然となじんでくるはずです。
世界に一つの表情は、どう生まれる?

新垣さんのシーサーには、一つとして同じ表情がありません。
「親方の怖くて細かい作風がベースにあります。でも、そこにアニメやゲーム、風神雷神、仏像など、自分が好きな世界観の影響が自然と入ってくるんです」
最近では、12星座をモチーフにした作品づくりにも挑戦。それぞれの星座の意味を調べ、シーサーと掛け合わせながら、新しい入り口をつくっています。
「伝統を守ることは大切。でも、別の入り口からシーサーを知ってもらうことも、同じくらい大切だと思っています」
伝統と革新のあいだで、4代目ならではの視点が、作品一つひとつに宿っていました。
マンションでも置ける? シーサーの飾り方
「マンションでも置いていいんですか?」
そう聞くと、新垣さんは迷わず「もちろんです」と答えてくれました。
「一番多いのは、玄関に近い下駄箱の上ですね。テレビ台の横やリビングの棚など、日常の中で自然と目に入る場所に置く方も多いです」
本来、魔除けとして考えるなら、家の入り口に近い場所が理想。でもマンションでは屋外に置けないことも多い。だからこそ、室内でも無理なく迎えられる場所を選ぶことが大切になります。
サイズも手に取りやすいものから大きなものまでさまざま。スペースが限られた住まいにも、シーサーは十分に迎えられます。
オスとメスの違い、置き方の意味
シーサーには、口を開けたオスと、口を閉じたメスがいるのをご存知ですか?
「やちむん家では、向かって右に口を開けたオス、左に口を閉じたメスを置く形が基本です。オスが福を招き、メスがその福を逃さない、という意味を持たせています」
ペアで迎えるイメージが強いシーサーですが、もともとは一体から始まったともいわれているそうです。置き場所に合わせて一体だけを選ぶ方もいるとのこと。
大切なのは、型にはめることよりも、自分の暮らしに合う迎え方をすること。そのくらいの気軽さで選んでいいのかもしれません。
“この子、うちの子”になる瞬間

オーダー制作では、家紋を入れたり、置き場所に合わせて目線や顔の向きを変えたりすることもできます。
「下に置くなら、見上げた時に目が合うように少し顔を上向きに。高い場所なら、視線が自然に合うように調整します。そうすると、ただの置物じゃなくなるんですよね」
視線が合う。それだけで、不思議と”自分のシーサー”という感覚が生まれる。
「”この子、うちの子”って思えた瞬間から、暮らしの中での存在感がぐっと変わると思います」
その言葉に、シーサーを迎えることの意味が、すべて詰まっているような気がしました。
シーサーの文化を、県外、そして海外へ

取材中に偶然訪れた、山口さんご家族と。
新垣さんがこれから目指しているのは、シーサーの文化を県外へ、そして海外へ広げること。
取材中、そんな思いを体現するような出来事がありました。
福岡から沖縄旅行で訪れた山口さんご家族が、わざわざ工房に挨拶に来てくれたのです。
「展示されているシーサーが気に入って、工房を調べて調べて、たどり着いてくれたんです。もう3体も購入してくれていて、ご自宅と会社に飾ってくれているそうです」
近くを通るたびに顔を出してくれる。そんな関係が、県外のお客さんとの間にも生まれていました。
「沖縄の人にとっては身近な守り神でも、県外の方にはまだ新鮮な存在だと思います。コラボや新しい表現を通して、『別の入り口』からシーサーを知ってもらいたいんです」
その根っこにあるのは、一つのシンプルな思い。
「『自宅に自分の守り神がある』という文化を、もっと多くの人に知ってほしい。それだけです」
山口さんご家族のように、シーサーとの出会いが沖縄との縁につながっていく。その連鎖が、新垣さんの作品づくりの励みになっています。
マンションにも迎えられる、”自分だけの守り神”という選択
シーサーは、ただの”沖縄らしい置物”ではありません。
暮らしの中に置くだけで、空気がすこし変わる。玄関に置けば、家に入るたびに気持ちが整う。ふと目が合えば、「守られている気がする」と感じる瞬間がある。
大きな変化じゃない。でも、日々の安心や心の余白につながる、小さな変化です。
マンションでも、スペースが限られていても大丈夫。「どこに置くか」よりも、「どう迎えるか」の方が、きっと大切です。
世界に一つの表情を持つシーサーの中から、”この子だ”と思える一体に出会えたとき。それはきっと、あなたの暮らしに寄り添う「頼れる守り神」になります。
沖縄の文化を取り入れることは、特別なことではありません。ほんの少し、自分の暮らしに余白をつくること。そのきっかけとして、シーサーを迎えてみるのも、いいかもしれませんね。
取材・文/ 新垣 隆磨