子どもが遊ぶ船は、難破船だった──安良波公園に刻まれた、北谷の人々の優しさと歴史

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「あの船、本物があったんだよ」──北谷町の安良波公園で子どもたちが遊ぶ大型遊具「インディアンオーク号」。ただのアスレチックではなく、180年前に実際に起きた難破船救助の物語を伝えるために作られた、特別な遊具です。1840年、北谷の海岸沖に座礁したイギリス輸送船。当時、難破船といえば略奪や殺害が起こることも珍しくなかった時代に、北谷の人々は乗組員を救出し、衣服や食料、住居を提供。45日間手厚くもてなし、全員を無事に送り出しました。その優しさはイギリスの文献にも記録され、2000年の沖縄サミットではブレア首相が訪問。今も続く国際交流の原点となっています。徒歩圏の公園に、歴史がある。それが、沖縄の公園の面白さです。

この方にお話しを伺いました!
北谷町役場(稲嶺さん、伊波さん)

 

稲嶺宗憲(いなみね むねのり) さん

(写真左)北谷町 建設経済部 土木課 主任技師 

土木課に勤務して7〜8年。一度は下水道課に異動したものの、再び公園係に戻り、計6年間公園の維持管理と計画業務を担当。安良波公園を含む町内の公園を管理し、令和2年のインディアンオーク号改修工事も担当した。

伊波亮(いは りょう) さん

(写真右)北谷町 建設経済部 土木課 技師 

現在、安良波公園の園路工事を担当し、他にも町内31の公園の管理を行っている。土木課公園係に配属となって1年目。日々、利用者の声を聞きながら、より良い公園づくりに取り組んでいる。

   
北谷町観光協会 公式WEBサイト CHATANAVI
  
https://chatantourism.com/

1840年、北谷の海に座礁したイギリス船

  
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北谷町の安良波公園。ビーチ沿いに広がるこの公園のシンボルは、大型遊具「インディアンオーク号」です。
  
子どもたちが滑り台を滑り、ネットを登り、船内を駆け回る。ただの遊具に見えるこの船には、180年前の物語が刻まれています。
  
「1840年、今から180年以上前に、イギリスの輸送船『インディアンオーク号』が北谷の海岸沖に座礁したんです」
  
そう語るのは、北谷町土木課の稲嶺さん。
  
当時は琉球王朝時代末期。北谷の海に、突然現れた外国船。乗組員たちの運命は、どうなったのでしょうか。
  

略奪ではなく、救助と歓待を選んだ人々

   
当時、難破船が座礁すると、略奪や殺害が起こることも珍しくありませんでした。
   
しかし、北谷の人々は違いました。
   
「乗組員を救出して、衣服や食料、住居を提供したんです。そして45日間、手厚くもてなして、全員を無事にイギリスへ送り出しました」
   
なぜ、北谷の人々はそうしたのか。
   
「情が厚いというか、心の広い北谷町民の行動として、今も歴史に残っています。これは北谷町の誇りなんです」と稲嶺さんは語ります。
   
この優しさは、遠く離れたイギリスにも伝わることになります。
   

大英図書館に残る、北谷の人々の優しさの記録

   
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北谷の人々の行為は、イギリスでも「信じられないほど感動的なもの」として受け止められました。
   
「当時のイギリスで出版された海事誌に、この救助の話が掲載されているんです。今でも、大英図書館(ブリティッシュライブラリー)のウェブサイトでデジタル資料を見ることができます」
   
稲嶺さんは、令和2年の改修工事の際、この事実を詳しく調べたといいます。
   
「遊具の前にある石板に『大英博物館に保管』と書いてあったんですが、実は間違いで、正しくは『大英図書館』だったんです。今回の改修で、その表記も正確に修正しました」
   
180年前の優しさが、遠くイギリスの図書館に記録として残っている。それは、この遊具が単なる遊び場ではなく、歴史を伝える装置でもあることを意味しています。
   

平成6年、歴史を伝えるために生まれた遊具

   
安良波公園ができたのは、平成6年(1994年)。
   
「公園を作るなら、この歴史を残したい、思い出してもらいたい。そういう想いから、船の遊具を作ることになったんです」
   
実は、今のインディアンオーク号は2代目。平成6年に初代が作られ、約25年間、子どもたちに親しまれてきました。
   
「初代も船の形をしていましたが、老朽化が激しくなって。北谷のシンボルでもあるので、もう一度新しく作り直そうということになりました」
   
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最初につくられたインディアンオーク号の遊具。
   

令和2年、2代目へ。

   
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令和2年(2020年)、2代目のインディアンオーク号の遊具が完成しました。改修工事を担当したのが、稲嶺さんです。
   
「施工会社にコンセプトを伝えて、提案してもらいました。歴史を伝えるという目的と、予算、そしてイメージに合ったものを選定しました」
   
新しい遊具は、初代の約3倍のアイテム数。滑り台、ネット、クライミングなど、子どもたちがより楽しめる設計になっています。
   
「遊具の周りには、クッション性の高いゴムチップ舗装を施しました。表面のデザインは波打ち際をイメージした配色にして、ビーチとの一体感を出しています。
   
また船内には、インディアンオーク号にまつわるイギリスと北谷町の歴史を表記した看板を設置しています。遊びながら歴史や文化に触れることができるんです」
   

2000年、ブレア首相の訪問から始まった交流

   
180年前の救助から時を経て、2000年。沖縄サミットが開催されました。
   
「当時の英国首相、トニー ブレアさんが北谷町を訪問したんです。この歴史的な経緯があったからこそ、北谷を選んでくださいました」
   
ブレア首相の訪問は、新しい交流のきっかけとなりました。
   
翌年2001年から、英国派遣交流事業がスタート。国際性豊かで国際社会に貢献できる人材育成を目指して、毎年イギリスのディーン・マグナ・スクールと相互交流を行っています。
   
「この派遣交流事業は、今年で25年目を迎えました。これまで派遣した生徒は106人、受け入れしたイギリスの生徒は69人にのぼります」
   
180年前の救助が、今も若い世代の国際交流として続いている。遊具に込められた「後世に伝える」という想いは、確実に受け継がれています。
   

バスケットコートも改修。「夕日をバックに」という声

   
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安良波公園の魅力は、インディアンオーク号だけではありません。
   
ビーチ沿いには、複数のバスケットコートがあり、いつも多くの人で賑わっています。
   
「バスケットコートも、利用者が多くて劣化が激しかったので、改修しました。インディアンオーク号の翌年ですね」と稲嶺さん。
   
利用者からは、こんな声が寄せられているそうです。
   
「『夕日をバックにバスケができる場所は、他にない』って。そういう声を聞くと、やっぱり嬉しいですね」
   
海に面した立地を活かし、夕暮れ時には絶好のロケーションに。観光客も、Bリーグ琉球ゴールデンキングスのアウェイ試合に来たファンも、SNSで発信しながら楽しんでいます。
   
北谷町は米軍基地が近く、様々な国籍の人が暮らす国際色豊かな街。バスケットコートも、そんな多様性を象徴する場所になっています。
   

「日陰がない」の声に応えて、ヤシの木を増やす計画

   
公園管理者として、稲嶺さんと伊波さんが大切にしているのは、利用者の声です。
   
「特に夏場、『日陰がない』という声がよく届くんです」と伊波さん。
   
現在、伊波さんが担当しているのが園路の拡幅工事。それに合わせて、ヤシの木をたくさん植える計画が進んでいます。
   
「ビーチ沿いの公園だから、ヤシの木がすごく合うと思うんです。海側にもたくさん植えているので、また見に来てください」
   
利用者の声に耳を傾け、それを形にしていく。それが、北谷町の公園づくりです。
   

安全・安心と、利用者の声を大切にする公園づくり

   
「公園づくりで一番大切にしているのは、安全・安心です」と稲嶺さん。
   
遊具や園路、植栽などは日常点検を重ね、危険箇所を早期に把握して、事故の未然防止につなげています。
   
「あわせて、子どもから高齢者まで誰もが使いやすい環境になるよう、利用のしやすさにも配慮しています」
   
さらに、指定管理者や地域の皆さまの声を取り入れながら、利用実態に合わせて改善を続けているそうです。
   
「長く愛される公園を目指しています。北谷町には33の公園がありますが、それぞれの場所の良さを活かしていきたいですね」
   

いろんな国の子どもたちが出会う、コミュニティの場

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取材者である筆者も、実は安良波公園のヘビーユーザー。
   
魅力は、遊具やビーチだけではありません。
   
「いろんな国の子どもたちがいて、その場で友達になって一緒に遊ぶんです。言葉が通じなくても、遊びを通じて仲良くなる。そういう体験ができる場所って、なかなかないと思うんです」
   
安良波公園は散歩や休憩、子どもの遊び、軽い運動など、地域の方が日常的に利用できる憩いの場。
   
そして、世代や立場の異なる利用者が集まることで、自然な見守りや交流が生まれるコミュニティの場にもなっていると感じています。
   
海に近い立地を活かし、町内外から訪れる方にも利用されることで、北谷らしい景観や回遊性を支える魅力発信の拠点の一つとしての役割も担っているのです。
   

遊びながら歴史に触れる、沖縄の公園の面白さ

   
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180年前の難破船救助。大英図書館に残る記録。沖縄サミットでのブレア首相訪問。25年間続く国際交流。インディアンオーク号という一つの遊具の背景には、これだけの物語が詰まっています。
   
「歴史的な背景を持った遊具って、他の公園ではなかなかないと思います。こういうコンセプトを持って作る遊具は、北谷町でもここが一番大きいですね」と稲嶺さん。
   
子どもたちは、ただ楽しく遊んでいるだけかもしれません。でも、いつか大きくなった時、「あの船には物語があったんだ」と気づく瞬間が来る。
   
それが、沖縄の公園の面白さ。
   
徒歩圏の公園に、歴史がある。遊びながら国際交流の原点に触れることができる。そしていろんな国の子どもたちが出会い、友達になる。
   
マンション選びの際、「駅から徒歩何分」と同じくらい大切なのが、「公園まで徒歩何分」かもしれません。特に子育て世代にとって、徒歩圏に魅力的な公園があるかどうかは、暮らしの質を大きく左右します。
   
沖縄には、こんな面白い公園がある。それを知ることで、住まい選びの視点も、少し変わってくるのではないでしょうか。
   
安良波公園で子どもが遊ぶ船を見かけたら、ぜひその背景にある物語を思い出してみてください。180年前の北谷の人々の優しさが、今も形として残っていることにきっと心が温かくなるはずですよ。
   

取材・文/新垣 隆磨

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