180年続く蔵元が教える、毎日を豊かにする”一杯の余白”──沖縄最古の蔵元が伝えたい、大人の楽しみ方
「泡盛は、ガブガブ飲むお酒じゃないんです」──そう語るのは、1846年創業、沖縄県最古の蔵元・新里酒造の7代目、新里建二さん。今年で180年を迎える老舗でありながら、「老舗だからこそ新鮮でありたい」と、常に新しい挑戦を続けてきました。県産米を使った泡盛、リキュール、そしてウイスキーまで。伝統を守りながら変化を恐れない姿勢の裏には、泡盛を「奥深い娯楽」として楽しんでほしいという想いがありました。ティー割り、炭酸割り、香りの分析、ジャケ買いから始まる酒蔵見学まで。忙しい毎日に「一杯の余白」を作る、大人の楽しみ方をお届けします。

右から3番目:
代表取締役(7代目) 新里建二さん
新里酒造株式会社
1846年(弘化3年)創業、沖縄県最古の蔵元・新里酒造の7代目。180年続く伝統を守りながら、「老舗だからこそ新鮮でありたい」という精神で、リキュール、スピリッツ、ウイスキーと新しい挑戦を続けている。県産米を使った泡盛造りにも取り組み、時代のニーズに合わせた進化を追求。
(左から)
営業部 高野桃佳さん、取締役統括部長 玉城純さん、製造部課長 新里尚也さん、
営業部 新里洋二さん、製造部 泉川良成さん
新里酒造株式会社
https://shinzato-shuzo.co.jp/
来年で180年──「老舗だからこそ新鮮でありたい」
うるま市・沖縄市を拠点とする新里酒造は、1846年(弘化3年)の創業以来、今年で180年を迎えます。沖縄県内で現存する最も古い酒蔵であり、7代目となる新里建二さんが現在その伝統を継いでいます。
「沖縄では一番古い老舗なんですが、老舗という看板だけで商売が成り立つわけじゃないんです」
新里さんは、老舗であることの意味をこう語ります。
「老舗だからこそ新鮮でありたい。常に新鮮でありたいと思っているんです。時代のニーズやトレンドに着目して、いいものがあればそれを取り入れていく。その精神がないと、ここまで続かなかったと思います」
180年という長い歴史の中で、新里酒造が大切にしてきたのは、「変わらないもの」と「変えていくもの」のバランスでした。
「私だけがやったというわけじゃなくて、先代たちも常に同じように新しいことに取り組んで、この暖簾を守ってきたんだと思います」
伝統を守り、変化を恐れない。泡盛からウイスキーへの挑戦
新里酒造のラインナップは、泡盛だけにとどまりません。リキュール、スピリッツ、そして近年ではウイスキー造りにも挑戦しています。
「泡盛がメインなので、伝統的な泡盛の作りは大事にしなくちゃいけない。でもその中から、変化できるものは変化させていく。うちが取り組んだのは、リキュール、スピリッツ、そして最近ではウイスキーです」
それでも、すべては泡盛という土台があってこそ。
「泡盛を土台にして、そこから派生していくイメージです。泡盛をおろそかにしているわけじゃなくて、メインは泡盛があって、それを基盤にして別のこともやっていくことで、世界観が広がっていくんです」
県産米が生み出す「フルーティーな香り」という新しい選択

伝統的な泡盛造りを守りながらも、新里酒造は新しい挑戦を続けています。その一つが、県産米を使った泡盛です。
「今取り組んでいるのは、タイ米だけではなくて、県内のお米を使って作る泡盛です。といっても、タイ米に似た長粒米なんですけどね。伊是名・伊平屋で生産してもらって、それを原料として泡盛を作っています」
県産米を使うことで、味わいにも変化が生まれました。
「フルーティーな香りがすごくするんです。タイ米に比べてね。今は『かりゆし』という商品から、順次県産米に切り替えていこうとしています」
時代のニーズに合わせた変化。それは、泡盛を飲む人たちの好みの変化に寄り添うことでもあります。
「泡盛も徐々に時代のニーズに合うような、県民の皆様のお口に合うような感じで作っていきたいと思っています」
「度数が高いから楽しくなる」──移住者が感じた泡盛の魅力
営業部の高野さんは、千葉県出身の移住者。内地から来た彼女が感じた泡盛の魅力を、こう語ります。
「最初にいいなと思ったポイントは、やっぱり泡盛があると雰囲気が楽しくなるっていうところですね」
それは、度数の高さがもたらす効果でもあるといいます。
「ビールだと、乾杯して徐々に仲良くなっていくと思うんです。2時間くらいでみんなバイバイだと、『結局この会って楽しかったんだっけ?』みたいになることもあって。でも泡盛だと、最初からちょっと度数が高いので、気分が高揚して楽しくなるんです」
さらに、味わいの優しさも魅力だといいます。
「味も結構マイルドで優しい味わいなので、心もほっとするような気持ちになります。それに、カロリーも気にせずに飲みやすいんです」
移住者だからこそ気づく、泡盛の持つコミュニケーションツールとしての力。それは、沖縄の温暖な気候とも相まって、人と人との距離を縮めるお酒なのです。
品質の安定を支える、徹底した温度管理と機械化
新里酒造の特徴の一つが、品質の安定性です。製造部の泉川さんは、こう説明します。
「機械化がかなり進んでいるので、安定して供給できますし、味も安定しています。昔から味を変えずに、職人が変わっても味を変化させないで、どうにかつなげていくという努力をしています」
伝統的な製法と機械化。一見矛盾するように思えますが、尚也さんはこう語ります。
「伝統的な方は、原料や黒麹菌、酵母など、同じものを使い続けています。工程も同じ工程を踏んでいるんですが、その管理を機械でちゃんと安定させているんです」
新里代表も補足します。
「品質を安定させるには、徹底的な温度管理が必要なんです。そのためにコンピューターを利用していますが、機械自体は道具という扱いですね。昔からやっていることを、その道具に少し任せているという感じです」
「地の神に捧げる」儀式の真実──昔の泡盛造りとの違い
温度管理の重要性について、新里代表は昔の泡盛造りとの違いを教えてくれました。
「昔は、もろみを冷やすという技術がなかったんです。だから沖縄の暑い気候の中では、もろみが腐敗してしまうことがあった。それを仕方なく蒸留すると、臭かったり油分が出たりするんですよ」
そして、沖縄でよく見られるある儀式の真実を明かします。
「よく『地の神に捧げる』といって、お酒をちょっとこぼす儀式がありますよね。あれは実は、上の方に浮いている油の輪っかを捨てるためだったんです。かっこよく『地の神に捧げる』と言っていますが(笑)」
今では、蒸留の段階で適切にカットすることで、油が浮くようなお酒はほとんどないそうです。
「品質はもうクリアで、油が浮くようなお酒は滅多にないですね」
温度管理と機械化が、泡盛の品質を大きく向上させたのです。
「血」のように身近な存在──7代目が継いだ泡盛との関係
7代目として新里酒造を継いだ新里代表。実は6代目は、8年前に亡くなったお兄様でした。
「兄貴は残念ながら8年前に亡くなってしまったんですが、2人とも小さい頃から近いところで、手伝いという意味も含めて、泡盛がすごく身近にあったんです」
そんな新里代表にとって、泡盛は特別な存在なのかと聞くと、意外な答えが返ってきました。
「楽しむというより、血みたいなものですね」
あまりにも身近すぎて、特別視することもない。それが7代目にとっての泡盛との関係なのです。
「最近はドクターストップで量は控えていますが、仕事として味わっているという状態が多いですね」
お酒が弱くても飲む理由──研究者目線で味わうスタッフたち
新里酒造のスタッフたちは、どんな風に泡盛やウイスキーを楽しんでいるのでしょうか。
マスターブレンダーの尚也さんは、ウイスキー担当。実はお酒に弱いそうですが、こう語ります。
「お酒に弱いんで量は飲めないんですけど、勉強しないとできないんです。美味しいものを作るには、美味しいものをたくさん知らないといけないので、積極的に飲むようにしています」
新商品開発の際には、社内で試飲会を開くそうです。
「新商品開発の際には、内部で必ず試飲をやっています。みんなの意見を幅広く取り入れて、それを商品化に結びつける。いろんな角度からお酒を考えながら飲む機会は、すごくいい機会だと思っています」
新里代表も続けます。
「自分たちの製品がどのポジションにあるかを知るために、自社の商品だけではなくて、他社さんの商品も飲み比べたりしています。マッピングする感じですね」
スタッフたちは、単に楽しむだけでなく、研究者のような目線でお酒を味わっているのです。
ティー割り、炭酸割り──SNSで広がる新しい楽しみ方
営業部の高野さんは、SNS担当として様々な飲み方を発信しています。
「SNSでペアリングを発信しているんですが、午後ティーで割るとか、ウィルキンソンの炭酸で割るとか。社内でもそうやって常に飲んでいる人がいるんですよ」
特に人気なのが、午後の紅茶のアイスティーとの組み合わせ。
「『かりゆし』と午後の紅茶のアイスティーが合うんです。それがすごく美味しくて、そういうのをみんなで飲んでもらったりしています」
洋二さんも頷きます。
「いろんな会社のお酒の情報も頻繁に話題に上がってくるので、基本的にはみんなお酒好きですね。強いか弱いかは別にして」
楽しむというより、研究者目線。それが新里酒造のスタッフたちの姿勢なのです。
「ガブガブ飲むお酒」じゃない──小さなグラスで味わってほしい
「島酒」という言葉について、新里代表は複雑な想いを語ります。
「島酒という言葉はいいんですけど、ジョッキでガブガブ飲むようなお酒だと思われるのは嫌なんですよね」
新里さんが理想とする泡盛の楽しみ方は、別のところにあります。
「本当は、味わって飲んでいただきたい。一生懸命作っているわけですから、ガブガブ飲まれたらね。大きなジョッキでというより、小さいグラスでこう味わいながら飲んでいただくのが理想的です」
泡盛は、大量に飲むお酒ではなく、じっくり味わう大人のお酒。それが、180年の歴史を持つ蔵元の想いなのです。
飲み放題が変えた風景──「ボトルを囲む」文化の変化
新里さんには、もう一つ気になっていることがあります。それは、飲み会のスタイルの変化です。
「昔は、最初ビールを飲んで、『そろそろ島酒に帰るか』って感じで、みんなで泡盛を飲んでいたんです。でも今は、最初からチューハイだったりハイボールだったり。その辺が一番、泡盛を作っている我々としては懸念されるところですね」
特に、ハイボールを飲む人は最初から最後までハイボールを通すため、なかなか泡盛に移行しないといいます。
「飲み放題というシステムが、若い方々を泡盛から少し遠ざけているように感じています」
何が失われたのでしょうか。
「昔は瓶やボトルをみんなで囲む、という形だったんです。泡盛の瓶を中心に、みんなが集まって、それを回し合う。その光景が、もうなくなっちゃった。それがちょっと寂しいですね」
泡盛を囲んで語り合う。そんな沖縄の文化が、少しずつ変わりつつあることを、新里代表はは肌で感じているのです。
「幸福感」を感じる古酒(クース)の魅力
移住者の高野さんが特に感動したのが、古酒(クース)の存在でした。
「クースは、他の食材では感じたことがないくらいの、舌がびっくりするような新しい刺激があるんです。すごく幸せだな、美味しすぎて幸せ、みたいな感覚が衝撃的でした」
そして、こう続けます。
「いい泡盛になればなるほど、すごく自分の心を豊かにしてくれる。泡盛を飲んだ時は、他のお酒と違って安心感が違うんです。心がほっとするというか」
玉城さんも、古酒の魅力について語ります。
「泡盛は度数が高くて飲みにくいというイメージがあるかもしれませんが、古酒は3年以上寝かせているので、まろやかになっていて、アルコールの角が取れて甘い感じのお酒に変化しているんです。その良さをぜひ分かってほしいですね」
そして、こう付け加えました。
「個人的には、古酒をちびりちびり飲むのが一番いいと思っています」
バーで飲むウイスキーが一番うまい──香りを楽しむという贅沢
ウイスキー担当の尚也さんは、お酒が弱いながらも、独自の楽しみ方を見つけています。
「バーで飲むウイスキーが一番うまいと思っていて。だから若い人もバーに行ってほしいですね」
尚也さんにとって、お酒は酔うためだけのものではありません。
「僕は下戸なので、量が飲めません。お酒を飲んでほろ酔い気分になることももちろん楽しいのですが、実はお酒には酔うことよりももっと楽しいことがあると思っています」
では、何を楽しんでいるのでしょうか。
「香りを楽しむという楽しみ方が広まったらいいなって思っています。友人や大切な人と、香りの感覚などを共有するのはすごく楽しいんです。たとえば『これはりんごかな、オレンジかな』『白い花か赤い花か』といったことを、やいのやいの議論して、感覚を共有するのが楽しいんですよね。水を少しずつ足すと急に香りがパッと変わったり、このタイミングで柑橘系が出てくるななど、そういう感想を共有する。正解を求めるのではなくて、それぞれの感性で、自由に香りを楽しんでほしいと思っています」
お酒が弱いからこそ見つけた、香りという新しい楽しみ方。それは、量ではなく質を追求する、大人の嗜み方なのです。
「最高に奥が深い娯楽」──五感で楽しむお酒の世界
高野さんは、お酒を「最高に奥が深い娯楽」だと表現します。
「お酒を飲むことって娯楽の一つだと思うんですけど、最高に奥が深い娯楽だと思っているんです。香りだったり、味だったり、見た目だったり、雰囲気だったり、いろんな五感を使って楽しむことができる」
そして、こう続けます。
「嗜好品なので、ラベル一つとっても味の一つになるんですよね。楽しさも美味しさの形成する要素だと思います」
お酒を飲むという行為は、単に液体を口に入れるだけではない。見て、嗅いで、味わって、その背景にあるストーリーを知って、誰かと共有する。そのすべてが、一杯の味を作り上げているのです。
ジャケ買い歓迎、見た目から入る楽しさ
洋二さんは、「まずは見た目から入ってほしい」と語ります。
「手に取りやすいように、キャッチーなラベルに工夫しているので、ジャケ買いしてほしいですね」
泉川さんも、見た目の重要性を強調します。
「個人的には、自分なりの楽しみ方を見つけてほしい。見た目にこだわったり、グラスにこだわったり。泡盛は透明なので、色をつけたりもできます。シークヮーサーとか果汁を入れたり、ジュースを入れたりして、見た目も楽しみつつ飲んでほしいです」
そして、体験とのセットも勧めます。
「移住の方でしたら、地元の酒蔵見学に行くとか。そこのお酒をセットで楽しむのがすごくお勧めです」
ちびりちびり、自分なりの割り方で──読者へのメッセージ
新里代表は読者にこうメッセージを送ります。
「消費者の皆さんに合ったお酒を選んでいただいて、自分なりの割り方、飲み方で飲んでいただきたい。そのためには、うちはバリエーションがいっぱいありますよ」
リキュール、スピリッツ、ウイスキー。様々な選択肢がある中で、自分に合ったものを見つけてほしいと語ります。
「お酒が弱い方にはリキュールをお勧めします。パッションフルーツのリキュールとか、グァバもあります、バナナもあります。スピリッツでは、泡盛とブラックコーヒーを合わせた『泡盛コーヒー』というのもあります」
そして、ウイスキーについても触れます。
「最近のウイスキーは品評会で賞をいただいたものもあります。ぜひご試飲いただきたいですね」
最後に、こう締めくくりました。
「泡盛でも、ウイスキーでも、自分に合ったアルコールを見つけていただきたい。それがうちの銘柄だったら最高ですけどね」
酒蔵見学でファンになる──体験とセットで楽しむ泡盛
https://shinzato-shuzo.co.jp/inspection/
新里酒造では、酒蔵見学を常時受け付けています。ホームページの予約フォームから、平日のみの受付となりますが、有料で見学が可能です。
「今のところ、16,500円のウイスキーを試飲することができるんですよ」と新里さん。「ただ、これは今だけかもしれないので、お早めに」と笑顔で語ります。
泉川さんも、酒蔵見学の魅力を強調します。
「酒蔵見学に行くと、必ずファンになって帰ると思います。製造工程を見て、背景を知ると、そのお酒がもっと美味しくなりますから」
泡盛を単体で楽しむのではなく、作り手の想いや製造工程を知った上で味わう。それが、泡盛を「奥深い娯楽」として楽しむ第一歩なのです。
「余白の時間」を作る、180年の知恵
1846年から続く新里酒造が教えてくれたのは、泡盛は「ガブガブ飲むお酒」ではなく、「じっくり味わう大人の娯楽」だということ。
小さなグラスで、香りを楽しみながら、ちびりちびりと。午後ティーで割ったり、炭酸で割ったり、パーシャルショットにしたり。見た目を楽しんだり、ラベルで選んだり、酒蔵見学で背景を知ったり。
忙しい毎日の中で、「一杯の余白」を作る方法は、人それぞれ。泡盛が、そしてウイスキーが、リキュールが、あなたの暮らしに寄り添う存在になるかもしれません。
新しいマンションでの新生活、移住後の沖縄暮らし。その日常に、沖縄最古の蔵元が紡ぐ「一杯の余白」を取り入れてみませんか。きっと、毎日がもっと豊かになるはずです。
取材・文/新垣 隆磨