光と風が描く、沖縄の余白──花ブロックと暮らす物語

花ブロックコラムアイキャッチ画像

強い日差しも、弾む風も、やわらかく受け止めてくれる――沖縄の風景に溶け込む花ブロックは、戦後の復興を支えた建材であり、いまも暮らしに“余白”を運ぶ存在です。今回は、県内で長く花ブロックをつくり続ける(株)山内コンクリートブロックさんにお話を伺い、その生まれと進化、そしてマンション暮らしに息づく価値を探りました。

この方にお話しを伺いました!
山内コンクリートブロック安里さん

 

取材協力:安里 秋乃さん

株式会社 山内コンクリートブロック 代表取締役社長

 

祖父の代から続く山内コンクリートブロック株式会社の4代目社長。物心ついた時から身近に花ブロックがあり、当たり前のように接してきた。県内外の方からのご要望に応えながら、花ブロックの成形技術を発展させる。花ブロックへの愛と情熱は世界一。

   
花ブロック本舗|山内コンクリートブロック
  
https://www.yamauchi-cb.jp/
   
インスタグラム|yamauchi_cb
   
https://www.instagram.com/yamauchi_cb

 

なぜ、花ブロックは生まれ、残ったのか

   
花ブロックコラム素材①
   
沖縄版花ブロックのルーツは、戦後の焼け野原にありました。アメリカ統治下でコンクリート建築の技術と機械が持ち込まれ、台風に強く、風が抜ける建物が求められる中で定着。花ブロックのデザインは米国由来の図案を起点としつつ、仲座久雄先生ら建築家の工夫により、長方形の枠を組み合わせた正方形ブロックへと改良されました。
   
「花ブロックは、沖縄の暮らしに合うように職人たちが工夫を重ねてきたんです」と安里さん。沖縄の風土と文化に馴染む“使い方”が磨かれていったと振り返ります。
   
やがて普及が一巡し、製造所が減っていくなかでも、山内コンクリートブロックは「花ブロックを残す」ことに注力。そんな折、東日本大震災で東北の多くの木造住宅が倒壊してしまいました。沖縄の建物のように丈夫で災害にも強い建築資材が注目される中で需要が高まり、花ブロックを壁全面に積む手法が建築誌などで紹介されました。沖縄へ“逆輸入”される形で、花ブロックは再び注目を集めます。安里さんも「震災復興の流れと重なったことは大きい」と語ります。復興の象徴として、そして美しい目隠しとして、花ブロックの立ち位置は昇華していきました。
   

光と風と、ささやかな“余白”——暮らしの中の効用

   
花ブロックコラム素材②
   
※花ブロックを活用した内装イメージ
   
花ブロックは、光と風を通しながら視線をほどよく遮るのが大きな特徴。厚み(10cm/15cm)により見え方が変わり、厚いほど外からの視線は通しにくくなります。
   
「厚みがある分、中が見えにくいけれど、光と風はちゃんと通すんです」と安里さん。ベランダの洗濯物が乾きやすく、台風時には簡易な雨戸のように窓を守ってくれるとも語ります。
   
さらに魅力的なのは、開口が“額縁(フレーム)”になること。安里さんは「中で生活していると、開口部分が小さな窓みたいになる。『今日はいい天気だな』『傘を持っていこう』なんて、日常の気づきがそこから生まれるんです」と話してくれました。子どもにとっては“のぞき穴”、大人にとっては“景色を切り取る窓”。このささやかな行為の余白が、暮らしに呼吸をつくります。
   

“らしさ”を形に——三日月・二重角、そして新しい図案へ

   
花ブロックコラム素材③   
   
長く愛されてきた定番は三日月型二重角型。遠目にはリズムのある幾何学、近くでは柔らかな曲線が印象的です。安里さんによると「最近は技術が進んで、ハイビスカスやモンステラといった立体的なデザインも作れるようになりました」とのこと。凹凸で陰影を生むことで、日差しの強い沖縄の外観に豊かな表情を加えています。
   

水タンクを隠す壁から、街をやさしくする壁へ

   
かつて花ブロックは、沖縄特有である各屋根上の水タンクを隠すための囲いとしても重宝されました。「昔は、煙突みたいに花ブロックを積んで水タンクを隠していたんですよ」と安里さん。目隠しの工夫が、やがて街の景観をつくる存在になっていきました。
   
戦後の復興や災害からの立ち上がりとも重なり、花ブロックは「見たくないものを隠す」から「暮らしを美しく整える」へと意味を広げてきました。いま、マンションやホテルでの全面積みが増えたのは、その価値が再発見された証拠です。
   

マンション暮らしにフィットする理由

   
花ブロックコラム素材④   
   
マンションは世帯数が多く、プライバシーの確保外観の美しさの両立が課題になりがち。花ブロックなら、
   

  • ベランダの目隠し×通風
  • 夜間、点灯時の室内の透け感を軽減
  • 洗濯動線の快適化(風が通る)
  • 台風時の飛来物対策の一助

   
を同時に満たします。安里さんも「生活感が出やすい場所ほど、花ブロックが雰囲気を和らげてくれるんです」と語ります。部分使いでも効果的で、共用廊下や駐輪場、ゴミ置き場などに取り入れられています。

色で育てる建物——10年ごとに、好きな色へ

   
建物は10年スパンでメンテナンスの時期を迎えます。花ブロックは塗装で表情が一変。「白もいいけれど、ピンクやコーラルに塗り替えるとリゾート感が出るんですよ」と安里さん。家族の好みや街並みに合わせて色を変えることで、同じ外構でも飽きない楽しさが生まれます。住む人が関わることで、暮らしを育てていける余白が広がります。
   

“呼吸する外構”を、これからの沖縄に

   
木造住宅が増えるなかでも、どこか一か所だけでも花ブロックを。それは歴史をつなぐ行為であり、毎日の暮らしにやわらかな呼吸を取り戻す選択です。「猫の足跡の形のブロックを作れないかと相談されたこともあるんです」と安里さん。暮らし手の声が新しい発想を呼び、街に想像力を加えていきます。
   

今日の光と風を、好きな形で迎えよう

   
花ブロックコラム素材⑤   
   
窓を開けて、花ブロックのすき間から外をのぞく。その小さな所作が、忙しない一日のテンポをやさしく整えることがあります。安里さんも「花ブロックは一枚からでも使えます。暮らしに小さなゆとりを加えてほしい」と話していました。マンションでも戸建てでも、“1枚から”始められるのが花ブロック。次の住まいの計画に、ほんの少しの余白を足してみませんか。
   

復興の記憶から、日常のやすらぎへ

   
花ブロックコラム素材⑥   
   
花ブロックは、戦後の復興を支えた技術の結晶であり、いまは暮らしに“余白”をもたらす心のインフラ。光と風、そしてプライバシー。機能と情緒を同時に満たしながら、未来の記憶をつくっていきます。安里さんが語ったように「花ブロックがあるだけで、家は飽きない。住んでいて楽しい家になるんです」。あなたの住まいにも、やさしい“花のかたち”を。

   
取材・文/新垣 隆磨

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